風邪の記憶

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風邪をひくと、きまって、おさないころのことをおもいだす。

あたまのぼうっとする感じ、のどのいたみ、痰のへんなあじ。じっとりした汗と、さむけ。

ふとんによこたわると、ふしぎと、おさないわたしが目をさます。

まくらもとのボックスティッシュ、水銀のたいおんけい、かけぶとんのおもたさ。いつもよりもやさしい、おかあさんの声。

やわらかいプッチンプリン、たまごとしらすのとろとろのおかゆ、ポカリスウェットのあおいラベル、グラスに入ったふといストロー。

ごうごう、うなっているファンヒーター。廊下でひびくあしおと。遠くからきこえてくる、家族のわらいごえ。

そうか、もう夕ごはんのじかんになったんだなあ。

たたみの部屋でひとり、ときおり、ぼんやりと目をあける。てんじょうの木目は、くすくすわらっているおじいさんの顔そっくりだった。

すべての時間が、ただ、ゆったりと、ゆっくりと、すぎていった。

ひとは記憶をもっているのだなあ。

もうすっかり、わすれてしまったとおもっていても。きっかけさえあれば、もう帰れないはずの、あの日々がよみがえってくるものなのだなあ。


 

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