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風邪をひくと、きまって、おさないころのことをおもいだす。
あたまのぼうっとする感じ、のどのいたみ、痰のへんなあじ。じっとりした汗と、さむけ。
ふとんによこたわると、ふしぎと、おさないわたしが目をさます。
まくらもとのボックスティッシュ、水銀のたいおんけい、かけぶとんのおもたさ。いつもよりもやさしい、おかあさんの声。
やわらかいプッチンプリン、たまごとしらすのとろとろのおかゆ、ポカリスウェットのあおいラベル、グラスに入ったふといストロー。
ごうごう、うなっているファンヒーター。廊下でひびくあしおと。遠くからきこえてくる、家族のわらいごえ。
そうか、もう夕ごはんのじかんになったんだなあ。
たたみの部屋でひとり、ときおり、ぼんやりと目をあける。てんじょうの木目は、くすくすわらっているおじいさんの顔そっくりだった。
すべての時間が、ただ、ゆったりと、ゆっくりと、すぎていった。
ひとは記憶をもっているのだなあ。
もうすっかり、わすれてしまったとおもっていても。きっかけさえあれば、もう帰れないはずの、あの日々がよみがえってくるものなのだなあ。
VoYJ運営部員、東京大学UNiTeメンバー。小説を書くのが好きで、将来の目標は小説の力で平和な世界を作ること。「作者は読者が納得したのであれば、どのような解釈であれそれでよしとしなければならないのです」という祖父の言葉を座右の銘に、日々修行しています。広島県出身で、地元の自然豊かな風景が自慢。
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