5月30日は、「ごみゼロの日」。
「ご(5)み(3)ゼロ(0)」と。
語呂合わせ系の記念日としては、相当うまくはまった方ですね(笑)。
その内容は、というと、「美化活動とともに、ごみの減量化と再資源化を促す啓発活動を実施するための記念日。」とのこと。
嬉しいワードを見つけました。
「ごみの再資源化」。
これからご紹介する我々の活動内容にも深く関わってくる言葉です。
今や時代は、「減量化」よりも、「再資源化」。
いくら減量したところで、ごみとして焼却する以上は大きな環境負荷を与えることに変わりない。
だからこそ、そもそも論として、ゴミをゴミでなくしてしまう「再資源化」こそが、より実効性のある解決策であると私は考えています。
〇〇を用いて食品リサイクル
さて、そんな再資源化に我々が、微力ながらも貢献できていることを願いつつ、遅ればせながら活動内容の紹介をさせてください。
私は、Grubin(グラビン)という学生プロジェクトの代表をしている、東京大学医学部医学科3年の川本亮と申します。
そして、このGrubinという名前。
「Grub」(幼虫)と「Bin」(ゴミ箱)を組み合わせた造語です。
「え、『幼虫』?」
そう思った方、ナイス気づき。
「あ、そういえば、タイトルに、ハエが云々って書いてあったような。
え、まさか…」
はい、ご明察。
そのまさか、です。
我々は、アメリカミズアブというハエの一種の幼虫を用いた食品リサイクルに取り組んでいます。
具体的には、ミズアブの幼虫が生ゴミを分解し、成長します。
そして、成長した幼虫は養鶏や魚類養殖のエサとして活用され、そこで育った鶏や魚が食卓に戻ってきます。
これにより、ミズアブの幼虫を介した食品循環の輪が完結するんです。
ミズアブとは何者か
いや、突然ミズアブって言われても、、と思いますよね。
ミズアブたちの強みを、十分すぎるほど詳しく説明させてください。
まず、ミズアブって、どんな見た目なんでしょうか。
ということで、ドーーーン。
これは、卵から、幼虫、蛹を経て成虫に至る一連の生活環を示したイラストです。
ミズアブの一生は約45日。
そのうちの18日ほどを幼虫として過ごしますが、ミズアブの強みは主にこの期間に集約されます。
その強みとは大きく二つ。
まず一つが、生ゴミの分解能力が非常に高いということ。
現行の食品リサイクルの主流は、バクテリアなどを用いて生ゴミを肥料へと変えるコンポストですが、その過程に非常に時間がかかるという問題点があります。
その点、ミズアブの幼虫はバクテリアよりも数倍から数十倍の分解速度を誇り、短時間での分解が可能となります。
また、生ゴミを高速で分解し成長した幼虫は、タンパク質含有量の多い優良な飼料となります。
これが二つ目の強み。
そのミズアブ飼料の用途は多様で、養鶏、養豚、魚類養殖などに活用可能です。
ほら、鶏くんたちも美味しそうに食べてます(笑)
加えて、これをマクロな視点で見れば、人口爆発によりタンパク質不足が叫ばれる中、生ゴミを均一なタンパク質に短期間で変えられるということは大いに意義深いとも考えられます。
そして、もう一つミズアブ最大の特徴を挙げるとすれば、「成虫に口がない」ということ。
これは非常に大きな意味を持ちます。
というのも、「ハエ=不衛生」というイメージそのものが、ほとんどのハエに口があることに起因すると言っても過言ではありません。
ほとんどのハエは、成虫に口があり、かつ飛び回る範囲が非常に広いため、腐敗した生ゴミや、し尿に触れたのち、人体に接触することで病原菌を移してしまうんです。
その点、ミズアブは口で生ゴミなどに触れることがないと同時に、飛び回る範囲が狭いとされており、感染を媒介する可能性も極端に低いと言われています。
生ゴミをタンパク質に変えられて、衛生的にも安心。
なんとまあ、いいやつなんでしょう。
もう、ミズアブへの愛が溢れ出て止まりません。
どうですか、そろそろあなたも、「気持ち悪い」とは思わなくなってきましたか?
そうとくれば、もうこちら側の人間です(笑)
選択肢を増やすということ
とまあ、熱くミズアブに関して語らせていただいたのですが、私はミズアブはあくまで「社会にとっての一つの選択肢」であると考えています。
(繰り返しますが、私個人としては本当にミズアブが大好きです。なんせ、もう一年弱にわたって自宅で同棲していますから…(笑))
これはすなわち、食品リサイクル、というテーマに対してミズアブ以外の方法もあっていい、むしろあるべきだということです。
例えば、バクテリアを用いた従来の方法も、非常に意味ある手法です。
「どうしても虫はまだ受け付けられなくて…」なんて方が食品リサイクルに取り組みたいと思った時には最良の選択肢になるはず。
加えて、最近は虫を使った食品リサイクルの方法もいくつか出てきています。
ミズアブとはまた別のハエを使った手法や、以前からあるミミズを使ったものまで。
これは本当に素晴らしいことだと思います。
「食品リサイクルに虫を使うって超面白いよね!取り組んでみたいな。」なんて思ってくださる方がいれば、色々な虫の長所、短所を比べて、自分の環境や好みに合わせた手法を選ぶことができる。
比較を経ない選択は、味気なく、そして得てして、個人個人の置かれた状況にフィットしたものではありません。
逆に、選択肢が多ければ多いほど、せっかく興味を持って下さった方々にちゃんと満足して使っていただける可能性が増し、ひいては、その良い評判を聞きつけて、最初は興味を持っていなかった人まで、この分野に興味を持ってくださる。
そんな好循環を作っていくことができればと考えています。
そして、そのために今我々ができることは、誰よりもミズアブの可能性を信じ、安心してミズアブを使っていただくための最大限の準備をすること。
これに尽きます。
だからこそ、ミズアブへの大きな愛を胸に、今後も一歩一歩歩んでいきたいと思います。
目指せオリンピック
さて、現在我々は、ミズアブの効果を確かめるための実証実験の段階にあります。
その実験は主に二つに分けられ、一つが生ゴミの分解実験、もう一つが飼料としての活用実験です。
前者に関しては、都内の大手企業のご協力のもと、社員食堂に下のイラストにあるような、内部にミズアブ幼虫を入れたリサイクル装置を設置します。
これにより、社員食堂から出る生ゴミをミズアブで分解し、その速度や、皆さんの反応をストックし、今後のより一層の改善に繋げていきます。
また、後者は、沖縄県南部の八重瀬町にて養鶏業者の方にご協力いただき、成長したミズアブから作った飼料を鶏に与える実験を行なっています。
先ほどお見せした鶏の写真は、その養鶏場にて我々が撮影した、ミズアブの粉末飼料をついばむ姿です。
今後は、これらの実証実験の規模を拡大すると同時に、皆さんにミズアブの可能性を知っていただけるよう努めていきたいと考えています。
最近は、ありがたいことにメディアに取り上げていただく機会も少しずつ増え、日本財団SOCIAL INNOVATION AWARD 2018最優秀賞、東京大学総長賞など、賞をいただくことも多くなってきました。
(参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44089560T20C19A4SHB000/)
このような活動の延長として、我々が大きな目標の一つとして掲げているのが、2020年に開催される東京オリンピックでの導入。
ミズアブによって、選手村などから出る生ゴミをリサイクルし、日本国内だけでなく海外の方々にもこのミズアブの魅力を知ってもらいたい。
まずは、この大目標の実現をめざして、今後も着実に一歩ずつ進んでいきたいと考えています。
さて、つらつらと想いのたけを述べさせて頂きました。
ここまでお付き合いいただいた方、本当にありがとうございます。
少しでも、ミズアブの可能性と食品リサイクルのこれからについて想いを馳せていただけたなら、これ以上の喜びはありません。
あ、そういえば。
実はこれ、まだ前編です…(笑)
ついつい筆が止まらなくなってしまい、こんな事態になってしまいました。
後編では、どうしてミズアブに出会ったのか、カンボジアでの実証実験とその失敗、沖縄での出会いの数々まで、我々の一年半の歩みを時系列にお話ししていきます。
もしもう少しだけ駄文にお付き合いいただける方は後編も読んでいただければ幸いです。
1998年兵庫県生まれ。現在、東京大学医学部医学科に在籍中。医師を志すと同時に、独自の創造力を活かし「社会のデザイン」に取り組む。自身が代表を務めるプロジェクトGrubin(グラビン)では、ハエの一種、アメリカミズアブを用いた食品残渣のリサイクルに取り組み、東京大学総長賞、日本財団ソーシャルイノベーションアワード2018最優秀賞など受賞多数。