差異で溢れた人間社会でどう生きるか ―無知の知を持つ―

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こんにちは。東京大学文科一類一年のRikuです。大学の同じクラスの友達に頼まれてこの文章を書いてみることにしました。いや、19歳の若造が何偉そうに物事を知った風で語ってんねんと思うかもしれませんが、どうかお付き合いください。

 

人間ってそれぞれ違いますよね。何を当たり前のことを言ってるんだと言われるかもしれませんが、多くの人は意外とこのことを忘れているように感じます。人はそれぞれ違う経験をし、異なる環境で育ちます。そして当たり前ですがそうした経験、環境に基づく価値体系もそれぞれ違います。例えば渋谷のキラキラした女子高生と、遊ぶ場所といえばイオンモールか天文館しかない、校内携帯禁止の、テストが週に最大3回もある鹿児島の男子高校生が全く同じ価値観を持っているということはないでしょう。また人生を勉強に捧げた人と遊びに捧げた人が学問の世界に対して同じ価値観を持っていることはまずないでしょう。

こうした価値観の差は国が変わればさらに大きくなります。西洋人が考える自由(freedom)、権利(right)と言った概念は日本人にはどこか理解しがたいものですし、コーランは神の教えそのものであるということを信じている「日本人」はあまり多くはないでしょう。彼らは「日本人」とは違う考え方、価値観を持っていますし、行動は価値観に左右されることを考えると彼らの行動は時に我々には理解不能なものに映るでしょう。

 

国際交流がかつてないほど進み、異なる価値観を持った人々が社会集団を形成して暮らしている現代では価値観の相違に基づく様々な問題が発生しています。近年フランスでは過激な思想を持った一部ムスリムによるテロがたびたび生じていますし、いまだに内戦が続く国が多数存在します。
こうした差異が糾弾され悲劇を生む情勢の中、我々はどうするべきなのでしょうか。

 

私は二つのことが大切であると考えます。

一つは他者と自分の差異が何なのか理解しようとすることです。狭い自分の領域に閉じこもるのではなく自分が知らない様々な世界を経験し、様々な考え方に触れることで人は他者のことを想像し、相手をより理解することができます。彼らはなぜそのような風習を持つのか、なぜそのように考えるのかを考えることは非常に大切であり、様々な世界に触れることは広義での“勉強”と言えるでしょう。私たちは自分が知らない世界、そして他者について “勉強” しなければいけません。相手を否定する態度ばかりとっていてはこうした勉強をすることはできませんし、今後その人を理解することもないでしょう。私たちは常に “勉強” しなければいけないのです。 

もう一つは相手と価値観を完全に共有し、理解し合うことは不可能であり、自分の知らない世界は数多く存在するのだと自覚することです。これは言い換えると無知を知るということです。人は互いを完全に理解し合うことはできません。他者が経験した物事全てを追体験することは決してできませんし、全く同じ価値観を共有することもできません。どれだけ自分が知らない世界を見たとしてもその世界を完璧に理解することはできませんし、まして世の中の全ての側面を見ることなど不可能です。寿命が短い我々人間は、所詮限られた世界で生きざるを得ない生き物であり、全てを知ることはできません。その中で大切なことは、自分にはまだたくさんの知らない世界が存在し、自分が理解し切れない価値観を持った人がたくさんいるのだと認識することではないでしょうか。

 

私が所属する東京大学でも、まるで自分は問題の根幹にある要素全てを知っているかのような態度で社会問題を論じる学生を度々目にします。こうした態度は自分が知っている “広い” 世界での法則が世の中全てに適用されると勘違いしていることに起因するのではないでしょうか。世の中には多くの側面があり、その全てを理解することはできません。だからこそ我々はこうした未知の世界が存在することを認識する、つまり無知を知らなければいけません。これをソクラテスは「無知の知」と呼びました。無知の知を持っているからこそ我々は学ぶことができるのであり、無知に無知であることは何よりも危険です。無知の無知は、自分が知らないことは間違っているのだという態度を生み、他者への不寛容を生みます。私たちは自分が知らない世界を見るとともに無知を知らなければいけないのです。

 

自分が所属する東京大学では学部の最初の2年間は前期教養課程であり、専門性を持った科目はあまり開講されません。他大学の学生が専門性を持った内容を学んでいる中でのこの2年間を、自分は無知を知るための期間であると認識しています。この2年間は、自分がその存在すら知らなかったような様々な分野に触れ、自分にはまだ知らないことが数多くあることを認識する期間であり、無知を知ることで自分の世界が広がると信じています。無知を知ることの大切さを忘れず、他者の考えを理解する姿勢を持って大学生活を過ごしていきたい。


 

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