いじめを乗り越えて

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最初のいじめから九年、いじめが原因で中学を不登校になって絶望してから七年。本当に長い年月が流れた。

私が不登校になり心が壊れた原因は、いじめをしたあの子たちにある。けれど、あの子たちはその事実を知らない。先生たちがあの子たちに、事実も何も伝えなかったから。

あの子たちは罰も何も受けていない。私はいじめをしたあの子たちの心の内を知らない。あの子たちは私の傷ついた心の内を知らない。

私の何があの子たちを不快にさせていたのかな。

可愛いものが大好きだっただけなんだよ……。どこが気持ち悪かったのか教えてくれないと、自分では気づけないよ……。気づけないから、なおしようがないんだよ……。

心の傷が完全に癒えたわけじゃない。けれど、少しずつ私はいじめを乗り越えつつある。そう信じたい。

2022年2月、独学で英検準1級に合格した。十七歳の終わり、合格通知を見て、少しだけ自信が持てた。

2022年4月、十八歳の私は慶應義塾大学通信教育課程に入学した。ここに決めたのは、たくさんの大学を検討した上で、通信制でありながら質の高い学びができると思ったから。

文学部でありながら、人文、社会、自然の三つの科学(統計学や経済、法学、論理学、地学など)、外国語、保健体育など総合教育科目は全て履修しなければならない。

テキストを精読し、レポートを提出し、試験を受ける。レポートと試験のどちらにも合格してはじめて単位が修得できる。

メディア授業やスクーリングでの単位修得も卒業するうえで必須。

定められた単位を全て修得し、卒業論文指導を受ける。そして、卒業論文を提出して、口頭試問に合格して晴れて卒業できる。

会社勤めをしながらも最短の四年で卒業された方が、

「お金を払えば簡単に卒業できる通信制大学もある。けれど、慶應通信は違う」

と話していた。

確かに、簡単に慶應卒になれると思い、ネームバリューだけで慶應通信に入学した方々は、ふるい落とされる。

2023年4月、大学二年生になる。

入学から一年が経とうとしている。慶應通信のシステムにも慣れてきた。だからといって、驕らずに地道に努力を続ける。私も最短である四年で卒業するのだ(慶應通信は卒業が難しいため、入学から最長十二年まで在籍できる)。

大学の勉学に励みながら、英語を活かせる仕事をしよう。不登校になってしまった子どもたちの学習支援をしている方に出会ったので、私も参加しよう。興味のあること、全部してみよう。

そんな明るい気持ちが湧いてきた。

このまま私がずっと悲しみの淵に沈んでいたら、私も、私の家族も、かつてあったような笑顔を取り戻すことは一生できない。そう感じるようになった。少しずつでも、私が歩みはじめれば、家族は喜びに満ちた。私のせいで、家族から笑顔を奪いたくない。これ以上、大切な家族に心労をかけさせたくない。

かつてのように、心の底から笑い合いたい。これからは、たくさんの喜びや楽しみを家族と共有したい。

私の心には不安と恐怖、悲哀が残っている。それらの感情の一つ一つが、私が生き続けた証。そう信じている。

不登校になってから諦めていた海外留学。

心の傷が癒えだした最近になって、海外の大学院で学ぶことを目標にして、情報収集をはじめた。

私は母子家庭育ちで、海外に一度も行ったことがない。だからかな、どの国も魅力的に感じる。

そのなかでも、とりわけフィンランドに惹かれる。惹かれた理由は上手く説明できないけれど、フィンランドの街並みの映像を見ていると心が揺さぶられるのだ。

この先、どうなるかはわからない。ただ決めていることは、今までにできなかったこと全てに挑戦するということ!

挑戦の先に、素晴らしい未来がある。そう信じて。

いつか、今までの私の経験が、これから私が成し遂げていくことが、誰かの心の助力になれば嬉しい。

私は他者に傷つけられる痛みを知った。

だからこそ、誰かの涙を拭って、誰かの心が晴れるまで寄り添い続けるような慈愛に満ちた人間になるのだ。


 

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