寂しさは、手先からやってくる。

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寂しさは手先の温度差から始まる。

私は一人暮らしをしている。

鍵を回してドアを開けると

寒くて冷えた、暗い部屋が待っている。

急いで電気毛布に電源を入れて布団の中に潜る。

乾燥するから暖房はつけない派だ。

空気の温度は変わらない。

なんなら、外より冷えた空気が部屋の中に漂う。

なんで日本の家はこんなに寒いんだ?

とぶつぶつ言いながらも、

結局はもこもこなお気に入りのパジャマを着れるからいっか、と自分に言い聞かす。

だけど

いくら布団の中に潜ったって、

いくらもこもこあったかいパジャマで身を包んだって、

どうしても手先が冷えてしまう。

放置すると爪はいつのまにか紫色。

何でだろうね。

体は暖かいはずなのに、なぜか手先だけいつも冷えてしまう。

たぶんだけど

手先だけは、特別処置が必要なんだ。

太ももの下に手を入れて座るとか

耳たぶを触るとか

そういうことね。

そんな中でも、

冷え切った手を温める最高の方法は

生き物の体温だと思う。

ワンちゃんのお腹に手を当てたり

人と手を繋いだりしたことがありますか?

生き物の体温は、とっても不思議なんです。

移してもらったその暖かさが長く続く。

こたつの下で温まった手は、

抜いたらあっという間にまた冷えてしまうし

手袋で維持していた温かさは、

脱いだ瞬間にまた凍えてしまうし

 

体温を介さない保温は、すぐにその温もりが消えちゃうけど

生き物は違う。

しばらく余熱が残る。

そして

その余熱が消えた瞬間に、

寂しさはふとやってくる。

しばらくの間幸せを感じた末に、

やってくる。

生き物の体温は

私の手先に残って少しの間暖かくて幸せな思い出に浸らせては、

気づかないうちに消えてしまい

私はまた再びその暖気を求めるようになる。

寂しさはそうやって

知らない間に手先から顔を出す。

今も私の手先は冷えている。


 

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