花に平和を願う

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平和の象徴と聞いて、みなさんが思い浮かべるのはどんなものでしょう。

 

たとえば、ハト。旧約聖書でノアの方舟から飛び立ち、大洪水の水が引いたことを知らせた白いハトは、戻ってきたときにくわえていたひと枝のオリーブといっしょに絵文字にもされるほど、親しまれています。

 

あるいは、折り鶴。古くは縁起物として、のちに「ケガや病気が治りますように」という意味を込めて日本で作られ贈られていた千羽鶴が、原爆被爆者である佐々木禎子さんの闘病時のエピソードを通して世界に広がり、平和の象徴になりました。

 

ポピー(ヒナゲシ)もそのひとつ。“In Flanders Fields”[1] という一篇の詩を通して、主にイギリス連邦の国々の戦没者の象徴として、まずは赤いポピーのモチーフが広まりました。そのあとしばらくして、イギリス国外を含めたもっと広い視点に立って戦争の被害者を想い、戦争のない世の中を願おうと新たに提案されたモチーフが、白いポピーの花です。

 

いつも世界の隅々まで目を配り、起こっているすべての戦争や紛争に思いを馳せるためには、心がひとつだけでは到底足りない気がします。

 

それでも、どこか遥か遠くの国で

ハトが首を傾げ、

オリーブが木陰をつくり、

折り鶴が紙ナプキンから生まれ、

赤いポピーが風にそよぎ、

誰かが白いポピーを描いているかもしれない。

 

戦争の恐怖や痛みは、体験した人にしかわかりません。外から眺めただけでむやみにわかった気になってもいけないのだと思います。

文字通り「想像を絶する」体験したことのない恐怖や痛みより、どこかで息づいている平和の象徴のほうが、ずっと鮮やかに心に迫ってきませんか。

 

「すべて」とは程遠く思えるほど小さな存在こそが、案外「すべて」をつなぎとめているのかもしれません。

 


[1] Written by John McCrae, 1915. 作者のMcCraeは、第一次世界大戦で従軍したカナダの詩人とのことです。

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