柔道は心を強くすることができるのか

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中学時代は野球部だった私が高校で柔道を始めたのは、先輩のある一言がきっかけでした。

 

「柔道は身体だけでなく、心も強くなれるよ」

 

その言葉は、自分の心の弱さに恐れを抱いていた私の胸にまっすぐ突き刺さり、以降心の強さとは私にとって1つの重要なテーマであり続けました。

 

大学でも3年間柔道を続け、私の引退試合となった試合がありました。

 

結果は引き分けだったのですが、自分より体格が勝る相手に対して苦しい場面が続き、もう負けてもいいかなと思っている自分がいました。また、チームが敗れたときも、もう戦わなくていいことにどこかホッとしている自分がいました。

 

しかしそれは、私にとってとても残念なことでした。6年間柔道を続けても、結局自分の弱さを克服することはできなかったわけなのですから。

 

そんなとき、ふと『近代柔道』1)で全日本選手権で優勝した原沢選手のインタビューを読みました。その年の全日本選手権決勝は近年まれに見る死闘だったのですが、私が驚いたのは原沢選手もまたこの苦しい試合が終わるなら負けてもいいという気持ちと何度も闘っていたことでした。

 

私は心の強さについて誤解していたのかもしれません。それまで私は心が強くなるとは、自分の心の弱い部分がなくなることだと思っていました。しかし、世界のトップ選手の一人である原沢選手でさえ弱い自分をなくすことができないように、自分の持って生まれた気質は変えることはできないのかもしれません。

 

しかし、原沢選手が弱い自分に打ち勝って賜杯を掴んだように、自分の中で少しでも弱い部分より強い部分が上回った結果が出れば、それでよいのだと思います。そのための方法論は、拠り所とするものを持つことだったり、心の技術や成功体験から得る自信だったり、最後は気持ちなのかもしれません。

 

私は柔道で(少なくとも自分の思っていた意味合いで)心を強くすることはできませんでした。しかし、私は柔道をしたことで柔道それ自体は強くなることができ、それはすなわち私が自分の弱い部分に打ち勝ったいくつかの経験があることの証であると思っています。


1)柔道の月刊誌

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東大文学部心理学専修。高校、大学と柔道部に所属。実家はお寺。