ベルガマスク組曲は、フランスの作曲家、ドビュッシーの比較的初期のピアノ作品で、4曲から構成されています。私にとっては、恩師と一から作り上げ、ハクジュホールでの演奏会出演という夢を叶えた、大切な大切なレパートリーです。
「ベルガマスク組曲、絶対に利佳ちゃんに似合うと思うわ。」
コンサート出演のチャンスが舞い込んできたのは、本番の半年ほど前。先生の一言に背中を押され、組曲全体をステージで演奏するという大きな挑戦が始まりました。点字楽譜から一つ一つの音を読み取り、ドビュッシーが譜面に埋め込んだ魅力的な音楽を形にしていく時間は、まるで宝探しのよう。恩師が手取り足取り伝えてくださった、指先や身体の使い方、空間の感じ方と作り方…。それらを一つ一つ習得することで、譜面に託された感情の機微と無数に広がる表現の世界が、少しずつ目の前に広がっていきました。
こちらは2021年6月、コンサートのライブ録音。大学での学業の傍ら、尊敬する先生の下でピアノを学び続けられる喜び、最高の音響空間で、心から愛する音楽を共有できる幸せに満ちた「時の芸術」の記録をお届けします。
組曲の第3曲は、ドビュッシーの作品の中でも最も有名であろう、「月の光」。その作曲にインスピレーションを与えたとされる、ポール・ヴェルレーヌの詩には、次のような美しい一節があります。
Au calme clair de lune triste et beau,
Qui fait rêver, les oiseaux dans les arbres…..悲しく、美しく、密やかに照らす月の光は
樹々の中の小鳥たちを夢にいざなう––Paul Verlaine (1869). “Clair de lune”より
それぞれ異なる美しさを持つ4曲。私の思いと恩師のエッセンスが詰まった音楽で、皆様をドビュッシーのカラフルな世界へご案内できますように。
東京大学教育学部4年。特技はピアノ演奏と人の声を覚えること。将来は、誰もが望む場所で十分に教育を受けられる世界の実現に貢献したい。