わたしは時間です。あなたが生まれたその瞬間から、死ぬ最期の一瞬までずっとあなたに寄り添ってひっそりと流れ続けるのです。
わたしは時間です。あなたが嬉しいときも悲しいときも、いつもそばにいます。そんなわたしのことを、あなたはほとんど意識していないでしょう。けれどもときどき、早く流れすぎると文句を言いますよね。遅すぎると嘆いたりもしますよね。
ひどいなあ。わたしだって、せいいっぱいがんばっているのに。
「このまま時が止まってほしい。」
あなたはつぶやいたことがありますよね。
ごめんね。
たとえそう言われたとしても、わたしは流れ続けるのです。わたしも生き物ですから。どんなにそうしてあげたくても止まってあげることはできないのです。
あなたの全てを知っています。泣いていたことも笑っていたことも、むねが張り裂けそうになっていたことも。そっと、抱きしめてあげたかった。慰めてあげたかった。そばにいるのに流れていくことしかできない自分の無力さに、わたしだって泣きそうになることがあるのです。そして、立ち直ったあなたのたくましさに、胸を打たれることがあるのです。
誰も見ていないとあなたは思っているでしょう?
わたしに気がついてもいないでしょう?
それでいいのです。わたしは時間ですから。
あなたに伝えたいことがあります。わたしの唯一の願いごと。聞いてもらえるかな?
ひとりだって、思わないでくださいね。そばにわたしがいることに気がついて。そして、ちょっぴりぜいたくを言うと、いつかわたしと一緒にいて良かったと思ってくださいね。わたしはあなたの笑顔を見たくて、そばで生き続けますから。

VoYJ運営部、東京大学UNiTe卒業生。小説を書くのが大好き。物語ることで世界の平和に貢献したいと、毎日楽しく修行中です。広島県出身で、地元の自然豊かな風景が自慢。