ドボクについて考えてみた

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  • 皆さまは、まんのう池をご存知でしょうか?

四国の香川県にある日本最大級のため池です。

では、このまんのう池に深い関わりのある人物はご存知でしょうか?

答えは、平安時代の僧侶、空海。

空海は、唐へ留学しその後、まんのう池の堤防を建設したと言われています。当時、こういった土木工事に関わった僧侶は多く、奈良時代の行基もその一人と言われています。

 

土木は英語では、military engineering(軍事工学)と対比的に、civil engineeringと呼ばれます。直訳すると市民工学。市民の生活水準の向上や経済活動への寄与することを目的とすることからこのように呼ばれます。具体的には、橋梁や道路、鉄道といった「社会インフラ」と呼ばれるものから、都市計画や風景、景観デザインなども含まれます。

こんな土木に対して近頃思うところがあります。

これまでは、経済性や効率性が重視されることが多くありました。もちろん、経済や効率も大切だと思います。しかし、加えて、人々が精神的にも豊かに暮らせているのかという視点も大事なのではないかと。

 

土木建築物は時に、例えば、古代ローマの街道や日本の新幹線の様に富や権力の象徴のように扱われたり、アジアやアフリカでの日本と中国の国際開発の様に競争の舞台となることもあります。だけど、こんな風に思ってしまうのです。インフラは、優しさや希望の象徴であってほしいなと。綺麗な散歩道や公園が整備されて犯罪が減ったとか、災害で大きな被害を受けた後にカッコいいデザインの橋が完成して前向きになれたとか。

心の豊かさと言われてもピンとこないかもしれませんが、なんとなく、僧侶として人々の心の救済に力をそそいだ空海を思い出して、素人ながらつい考えてしまうのです。人々の生活をより良くするためにあるのが土木だとして、人々の良い生活は収入や家の大きさだけで判断できるものでもない気がします。いくらお金をもっていても、仲間外れにされたら寂しいですよね、きっと。

 

三つほど、心も豊かに暮らしていくために土木にできることを考えてみました。

一つは、公共事業の事前・事後の評価項目の中に、しっかりと心の豊かさを指標として入れていくことだと思います。評価の項目に入れば、様々な事業の実施過程で常に考慮されるはず。

 

二つ目は、これまでの構造物・計画・法律等で考えていた公共や土木をもう少し拡張したらどうかと思うのです。例えば、暮らしている人々。仕事でミスをして落ち込んでいても、近所の優しい人に「いってらっしゃい」と明るく声をかけられたら、ちょっとは元気がでるかもしれない。他にも、アートなど。京王井の頭線の渋谷駅から岡本太郎作の「明日の神話」がなくなったら、味気ない駅になってしまう気がします。他にもあると思います。看板とか、花々から香る匂いとか。

 

さらにもう一つ大事だなと思うのが、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」の「誰一人取り残さない」という理念です。

 

“Sustainable Development Goals(SDGs)とは__2015年に国連総会で採択された、2030年までの先進国を含めた世界の優先目標。貧困、教育、ジェンダーなど17のゴールと169のターゲットからなり、子供、若者、障害者、HIV/エイズと共に生きる人々、高齢者、先住民、難民、国内避難民、移民など最も周辺化されやすい人々を優先して、格差をなくしていく、「誰一人取り残さない」世界を目指しています。”

 

駅を利用する時、困っているのはどんな人たちだろう。津波から逃げる時、協力が必要な人達は誰だろう。この世界に暮らすたくさんの多様な人々が暮らしやすい世の中になっていって欲しいなと。「誰一人取り残さない」世界をつくってこそのcivil engineeringだと私は思うのです。

これからの土木が、「なんとなく最近、居心地が良いね。」、「近頃、優しい人が増えたよね。」こんな会話が生まれる土台になったら幸せなのです。


参考資料:

国土交通省「日本の河川技術の基礎をつくった人々・略史」http://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/kasen/rekishibunka/kasengijutsu11.html

香川県農政水産部土地改良課「ため池について 改修と築造」http://www.pref.kagawa.jp/tochikai/tameike/repair/kukai.html

外務省「SDGsとは?」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html

「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮訳)」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf

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