スウェーデンを語る会【前編】

船上にはためくスウェーデンフラッグ
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こんにちは、VoYJ編集部です!

今回は「スウェーデンを語る会」と題して、北欧スウェーデンにおいて留学や研究旅行を経験した影山萩野佐々の3人が、その経験を言語や生活、学業など様々な視点から語ります!

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佐々
まずは、僕たち3人がそれぞれスウェーデンにどのような関わりがあるのか、自己紹介を兼ねてシェアしましょうか!

影山
そうしたら、僕から。スウェーデンに来たのは2022年の8月なので、今のところ1年以上滞在しています。今日もスウェーデンからこの会に参加しています。もともと大学院留学をしたい、特にサステナビリティのことを勉強したいと考えていて、その分野を扱っている研究室があったのと、「この人のもとで学びたい!」という素敵な教授が何人かいたので、今通っているストックホルムの大学院を選びました。

佐々
そうなんですね。ストックホルム以外に候補の大学院はあったんですか?

影山
ストックホルム以外にもコペンハーゲンやドイツも留学先の候補には入っていたんですけど、一番行きたかったのはストックホルムでした。奨学金の条件や、時間差で合格していた日本の大学院の環境が気に入っていたこともあり、出願したのは本当に行きたい大学に絞りました。そして無事、第一志望だったストックホルムに通りました。

萩野
私の場合は留学ではなくて、研究のための資料集めを目的に、2023年の9月に3週間ほどスウェーデンに滞在しました。大学では文学や翻訳を勉強していて、卒論ではスウェーデン文学をテーマに扱っています。もともとはヘブライ語の翻訳をやりたくて大学に入ったんですけど、ヘブライ語は文字も文法体系も全く異なっているので、卒論で扱うにはなかなか難しいことがわかって。3年生の春学期にスウェーデン語を学ぶ機会があり、そこでスウェーデン語が好きになりました。アルファベットだからそのとき始めてもいけるかなと思って(笑)。そんなとき、ユダヤ系のバックグラウンドを持つスウェーデン人作家の作品に出会い、もともとやりたかったヘブライ語というのはユダヤの方たちが使っている言語なので、そこにいずれつなげることもできるかなと思って、その作品を研究することに決めました。アニカ・トール(Annika Thor)さんという方の「ステフィとネッリの物語」という全4巻のシリーズもの1)です。日本ではスウェーデン語のオリジナルに対する書評などはとにかく手に入らないので、実際にスウェーデン現地に行かないといけませんでした。

佐々
面白いですね。結局、スウェーデンでお目当ての資料は見つかったんですか?現地で本を買ったの?

萩野
見つかりすぎて、むしろ読むのが大変になっちゃったくらいで(笑)。もちろん購入した本もあるし、図書館でスキャンした新聞記事などもあります。卒論では4部作のスウェーデン語(原語)・日本語訳・英訳を比べるんですけど、英訳版のうち1巻だけネットでは買えなくて、現地で調達しました。作者のトールさんとも実際にお会いしました!史実に基づいたフィクションという形なので、成立背景とか書くことに対する姿勢とかいろいろ聞けて、とっても参考になりました。

滞在先の近所の小さな図書館にて

佐々
すごい!卒論頑張ってくださいね。僕の場合は、大学の留学制度を利用して、2023年の前半の半年間、スウェーデンのウプサラ大学というところに滞在していました。まず、スウェーデンを留学先に選んだ消極的な理由としては、半年留学の応募のタイミングで協定校の選択肢がすごく限られていたということです。アメリカやカナダ、フランスとかの人気の留学先大学は応募枠が1年留学の派遣学生で既に埋まってしまっていて、ヨーロッパの中で残っていたのは、スウェーデンのルンド大学やウプサラ大学、フィンランドのヘルシンキ大学とか、ヨーロッパでは比較的マイナーなところだったんですね。その中でも、移民難民問題やジェンダー政策など、総合的に自分の興味とマッチする勉強ができる大学はどこか?と考えて、最終的にウプサラ大学を選びました。ぼんやりとした北欧への憧れがあったのも理由かもです。影山さんもそういうのありませんでしたか?

影山
確かに、最初からアメリカとかイギリスは頭になかったかも。ドイツとか北欧の方が、サステナビリティとかの分野でいえば、他の国と比較して先進的だからね。

佐々
せっかくスウェーデン語の話も出てきたので、言語面について少し語りましょうか。萩野さんはかなり幅広い言語を学んでいるじゃないですか。他の言語と比較してスウェーデン語が異なる点とか気づいたところはありますか?

萩野
文字表記で言うと、「ä」「ö」についてる「¨(ウムラウト)」とか「å」の上についてる「⚪︎(リング符号)」とかが特徴的だよね。文法とか中身を見ていると、古い英語に近いと感じます。

影山
スウェーデン語って、ドイツ語とかオランダ語とかと近いよね。ドイツ語・オランダ語話者の友達が「スウェーデン語は英語とドイツ語を混ぜた感じ」って言ってたよ。

萩野
確かに、ドイツ語とは近いですね。私はオランダ語をちゃんと勉強したことがないのでわからないけど、勉強してた人はオランダ語も英語とドイツ語の中間くらいって言ってました。ベクトルが違うのかなって話してて。

佐々
僕も、現地大学で初級スウェーデン語の授業をとっていたんですけど、その先生はドイツ出身の方でした!配偶者の方がスウェーデン人だそうです。

萩野
私がいま研究している作品では、主人公がオーストリア出身で母語がドイツ語の姉妹なんだけど、突然スウェーデンに移住することになって、彼女たちがものすごく苦労したという描写があるの。似ているとは言っても、やっぱりドイツ語とは異なる部分も多いのかもしれないですね。

影山
スウェーデン語は方言も多いというよね。「ストックホルム訛りが〜」とか「南の地方の訛りが〜」とかスウェーデン人の友達との会話に出てくることがあるよ。

萩野
まあ、英語でも訛りとか方言とかは普通にありますもんね。私も、中学の英語スピーチの時に「カリフォルニア出身みたいな喋り方だね」って先生に言われました(笑)。

佐々
あとは、スウェーデン語って結構独特な表現がありますよね?

萩野
例えば、スウェーデン語の“because”の表現のひとつが、英語にすると“On the ground of”にあたるもので、ものすごくまわりくどいんですよね。それが、私がスウェーデン語に「古英語」っぽさを感じる理由なのかも。

佐々
あと、スウェーデン語の独特な語彙として、“Lagom (ラーゴム)”っていう言葉を聞いたことがあります。意味は、「ちょうどいい量」みたいな。スウェーデン人の生き方の哲学を反映するような言葉らしいです。

影山
“Lagom”知ってる!スウェーデン人はその言葉めっちゃ好きだよね。日本語には綺麗に訳せない言葉だと思います。英語で会話している時でも、「それって、Lagomだよね(笑)」みたいに使われているのを聞いたことがあります。

佐々
ネイティブみたいにその表現使えたらめっちゃかっこいいですね(笑)。影山さんは、現地ではどれくらいスウェーデン語の授業をとっていましたか?

影山
いや、ちゃんとスウェーデン語学びたいって思っているんだけど、他の用事とかが忙しくて先延ばしにしちゃっているなあ。授業自体は13回出席したんだけど、あんまり身についている感じはしないっていうのが正直なところかな。やっぱり継続的に勉強しなきゃダメだなと感じています。

佐々
そうなんですね。僕もスウェーデン語初級の授業をセメスターを通して1週間2コマ受けていました。初回は学生で教室がいっぱいだったんですけど、「出席は単位取得には必須ではない」って先生がアナウンスして、その翌週からは教室がガラガラになりました(笑)。僕は暇だったのでほとんどすべての授業に出席したんですけど、出席する学生はほぼ固定されていたので、逆にそのメンバーとすごく仲良くなりました。夕方の授業だったので、授業後にクラスメイトと一緒にディナーを食べたりもしました!

スウェーデン語の授業

萩野
私の場合、スウェーデン語の授業は大学3年の春学期しかありませんでした。でも今日も、このあと20時半から有志のスウェーデン語読書会があるんですよね。テキストの読解がメインではあるけど、各自が割り当てられたパートを音読して、その日本語訳を読み上げていくみたいな感じ。

佐々
面白そう。スウェーデン語って結構発音に苦労しません?

萩野
でも私はかなり慣れてきたと思う。先生に褒められることもあって。

佐々
それはすごいね!例えば「sk」の音が、「息を強く吐く」みたいな今まで発音したことのない音だから難しいって感じる。あと、スウェーデン語ってめっちゃメロディックですよね。独特な抑揚とリズムがあるような。それを習得するのも訓練が必要そうです。

影山
わかる!最近はスウェーデン語の響きが心地いいなって思うようになってきました。でも、はじめてスウェーデン語ネイティブ同士の会話を聞いたときはマシンガンでバーっと話すから、結構アグレッシブな印象で「怒ってるのかな?」って思ったこともあったな。

佐々
スウェーデン語は、ノルウェー語とはほぼ方言みたいな関係とも聞きました。

影山
あとはデンマーク語ともかなり近いらしいね。一方、北欧では唯一フィンランド語が他には類似していなくて特殊だとか。

萩野
ノルウェー語って実は2種類あるんですよね。このあいだ(2023年の)ノーベル文学賞を受賞したのはノルウェー人作家の方2) で、その人は「ニーノシュク(Nynorsk)」という話者が少ないほうの言語を使って執筆しているらしいです。北欧語っていうくくりはスウェーデン語と一緒だから、ちょっとテキストを見たとき「ニーノシュク」も読めそうかも?と一瞬思ったけど、私のスウェーデン語の先生いわく、なかなか読解は難しいらしいです。やっぱりまだ勉強が足りないからそんな気がしたんだろうなって思って。

影山
もっともっとスウェーデン語を学びたいけど、やっぱり言語を習得するのって本腰を入れないといけないから、結構難しいよね。

佐々
結局スウェーデンで生活していても、スウェーデン人の多くが流暢な英語を話すから、正直スウェーデン語が使えなくても問題なく生きていけるんですよね。

萩野
すごく感じたのは、私たちみたいなめっちゃアジア人らしい顔だとしても、お店とかではまずはスウェーデン語で話しかけてくるから、「この人は外国人っぽいから英語で話しかけよう」みたいな偏見はないのかもね。スウェーデン語ができた方が、やっぱり会話が盛り上がるとは思う。

影山
そうだよね。僕もこの前コンサートに行ったとき、司会者の人がスウェーデン語でたくさんジョークとかを言っていて会場が盛り上がっていたんだけど、それを理解できなかったのが悔しかったな。

Aviciiアリーナで行われたディズニー100周年コンサートの様子。

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いかがでしたか?「スウェーデンを語る会」はまだまだ続きます!
【中編】【後編】もお楽しみに☆


1) En ö i havet (1996), Näckrosdammen (1997), Havets djup (1998), Öppet hav (1999) の4巻。日本では菱木晃子さんの訳で『海の島』『睡蓮の池』『海の深み』『大海の光』(2006〜2009年、新宿書房)として刊行されています。
2) ヨン・フォッセ(Jon Fosse)。

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