ピアノの魔法に導かれて

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5歳で学び始めたピアノ。それは、私にとってかけがえのない親友のようなものとなり、大学4年になった現在も、点字楽譜を読み取りながら演奏活動を続けています。けれど、5年前、あの運命的な巡り合いがなければ、今の私はなかったことでしょう。私のピアノとの歩み、今なお奏で続けるきっかけとなった恩師との大切な出会いを記録したいと思い、この筆を執りました。

ピアノを習い始めた当初、お世話になっていた先生は、私が耳からの情報のみで楽譜に書かれた内容の全てを把握できるよう、練習曲の詳細な録音を作製してくださいました。それらの音源を聴きながら練習を重ねるうちに、私は、ピアノを弾く楽しさに目覚めることとなります。

難しくなる楽曲を耳からの情報のみで学ぶことに限界を感じ始めた時、点字楽譜に出会いました。作曲家の思いに直接触れ、そこから広がる世界を想像しながら作品の解釈を深める喜びを味わい、「自分の演奏を通じて誰かの心に光を送れるようなピアニストになりたい」という、夢の種を見つけたのもこの頃でした。

月日が流れ、高校生になった私には、音楽と同時に、国際協力や教育開発といった、新しい学問への関心が芽生えていました。音楽の道に進むのか、学問への熱意を追い求めるのか。究極の岐路に立たされていた高校2年の夏、転機となる出来事がありました。フランスで行なわれたニース夏期国際音楽アカデミーへの参加です。

現地で過ごした2週間は、私自身のピアノへの愛を確かめ、深める時間となりました。オリヴィエ・ギャルドン、ミシェル・ベロフという偉大なピアニスト、指導者からレッスンを受けたこと、コンサートに出演する機会に恵まれたこと…。夢のような一瞬一瞬が手に取るように思い出されます。また、社会人として、あるいは、他の学問を専攻しながらなど、様々な立場にありつつも、音楽への情熱を持って世界各地から集まった受講生たちと交流したことで、「大学で教育学を研究しながらピアノ演奏の向上もあきらめない!」という選択肢が現実味を帯びてきました。

そして何よりも、現在の私の演奏活動を支える恩師、Kaori先生と出会ったのがこのアカデミーだったのです。ニースで同じ教授のクラスを受講されていたKaori先生。先生が奏でるメンデルスゾーンの無言歌を初めて耳にした時、今までどこでも触れたことのない美しい音色の虜になりました。心の奥底が温かくなり、「このピアニストに教えを請いたい」という熱い思いがこみ上げてきたことをはっきりと覚えています。

居ても経ってもいられず、出会いからまもなく、「東京の大学に合格したらレッスンをしていただけませんか?」と先生に思いを伝えました。そんな突然の図々しいお願いを、先生は快く受け入れてくださったのです。入学試験が近づき、勉強に集中するようになった時期でも、エールを送り続けてくださった先生の存在、新天地でもピアノを習うことができる未来への希望が、受験勉強に励む心の支えとなっていたことは言うまでもありません。

晴れて東京での大学生活がスタートした春、私のピアノライフにも新しい1ページが加わりました。学業の傍らピアノと真剣に向き合うことは、決して簡単なことではありません。もちろん、練習にかけることができる時間も限られています。それでも、憧れのKaori先生のレッスンを受け、先生の音を浴びるたびに、「もっとこんな風に弾きたい」というイメージが膨らむのです。少しずつ、確実に、表現の引き出しが増えていく密な時間に、大きな幸せを感じています。

音楽には、喜びや感動、悲しみ、痛みなどの言葉にはできない感情を共有し、人々が心と心でつながることを可能にする力があるのだと思います。幼い頃から深い愛情を持ってご指導してくださった、たくさんの先生方のおかげで、私は、そんな音楽の不思議な力に気づくことができました。

フランスでKaori先生の演奏に魅せられたあの時も、音楽の魔法が私の背中を押してくれていたのかもしれません。点字楽譜でピアノを学ぶという特殊な背景を持った私の、突然の弟子入りを受け入れてくださったKaori先生、いつも私の個性を磨こうと工夫を重ねてくださるその温かいご指導に、心から感謝しています。まだまだ追求したい音色や技術、挑戦したい楽曲はたくさん。これからも、ピアノの魔法に包まれた時間を大切に、生涯にわたって美しい音楽を追究していきます。私の音色で、誰かの心の奥深くに一筋の光を届けられることを願いながら。




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