コロナとデマとSNS

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あなたがこれを読んでいる今、COVID-19は収束しているだろうか?

歴史を紐解いてみると、人類の歴史は感染症との戦いの連続だったことがわかる。
14世紀にヨーロッパを中心に流行したペストは、感染すると皮膚に黒い斑点ができることから「黒死病」と呼ばれた。
当時のユーラシア大陸の人口の4分の1が死亡、イギリスやフランスでは過半数が死亡したと推定されている。
1918年から流行し始めた「スペイン風邪」は、全世界で感染者6億人、死者は第一次世界大戦をはるかに上回る4000万人以上にも及んだ。
当時の世界人口が12億人であることを考えると、全人類の約半数がスペイン風邪に感染したことになる。
他にも猛威を振るった感染症は、ハンセン病、麻疹、天然痘、コレラ、結核、などと挙げればきりがない。
1980年にWHOが天然痘の根絶宣言を出してから、多くの人が近い将来人類は感染症を撲滅できるだろうと楽観していた。
今回のパンデミックが深刻化し始めた時、現実だと受け入れられなかった人もいるのではないか。

感染症のパンデミックが起きた時、さらなる混乱を招く原因となるのが、真偽不明の噂「デマ」だ。

ペスト菌の存在がわからなかった時代には、大流行のたびに原因が特定の人々に押し付けられ、魔女狩りが行われたり、特にユダヤ教徒をスケープゴートとして迫害する事件が続発した。

医学が発達した現代、こんな根拠のない噂に扇動されることなんてないだろうとお思いになるだろうか?今回のコロナ騒動ではどんなデマが流れたか思い返してみよう。

 

「新型ウイルスには正露丸が効く」「ウイルスはアメリカが広めた」「トイレットペーパーの入荷が少なくなっている」と言ったデマが広まった。

特に最後のデマは、2020年4月現在深刻な被害を与えている。スーパーマーケットからトイレットペーパーが消えたのだ。

このデマの悲しいところは、最初は完全な嘘であったものの、デマを信じた少数の人が買い占めという行動に走ったがために、デマを信じていなかった人も買い足さねばという気持ちにさせられたことにある。

今回のデマの多くで、火種となったのはTwitterやFacebookといったソーシャルネットワーキングサービス、SNSだ。

はじめに断っておくと、私はTwitterが大好きだ。何か悩み事がある時、ツイートするだけで気持ちが軽くなれる。自分の悩みなんて140字にまとめられるほど小さなものなんだと安心できる。

友達の近況を知れるし、リアルで話せない人と本音で議論できたりもする。

ただ負の側面があるのも事実だ。特にデマを広げるという点で、これほど拡散力のあるものを私は他に知らない。

SNSは表現の自由がある分、情報の信憑性が劣ってしまうのは仕方ない。しかしそれが多くの市民を巻き込んで悲惨な結果を引き起こすこともある。

 

 

メキシコでは、デマに扇動された群衆によって無実の市民2人が無残にも焼き殺されるという事件がおきたことがある。

 

その町では子供の誘拐事件が多発しており、深刻な社会問題として市民を不安に陥れていた。

ある日、「誘拐事件の犯人が捕まった」というFacebookの投稿があった。さらにその直後、「犯人の車の中に鎖があった」という証拠動画も投稿され、多くのシェアによって拡散された。

市民の正義感は最高潮に達し、100人以上の市民が「犯人を殺せ」と警察に駆けつけた。男2人が警察署から引き摺り出され、その場で火をつけ殺された。最初の投稿からわずか2時間後のことだった。

しかし殺された2人は誘拐事件の犯人ではなかった。2人は路上飲酒で事情聴取を受けていただけで、車にあった鎖は非常用に積んでいただけだった。

 

警察は詰め寄った市民に2人の無実を説明したが、怒り狂った市民にその声は届かなかった。

 

SNSが悪意を持った誰かによって市民を操作する道具として使われることもある。

2016年の米大統領選挙で対立候補のネガティブキャンペーンが繰り広げられたことは記憶に新しいかもしれない。

最近では大量のスマートフォンを用いて機械的に「いいね」やリツイートを量産するBOTというシステムが用いられている。

実在する人物のアカウントが売買の対象となり、虚偽の世論を形成するビジネスまで生まれている。

Facebook社は表現の自由を最大限認めるとしつつもこのようなデマやフェイクに対処する方針を示しているが、フェイクを生み出す技術も日々進歩しており、規制とのイタチごっこになっている。

このように、現代が生み出したSNSはデマを生み出し即座に拡散することに非常に優れている。

焦りや嫌悪感、怒りと言った負の感情を刺激されると、人はその投稿を拡散するという行動を取りがちなのだ。

COVID-19がパンデミックを引き起こしている現在は、誘拐事件が多発していたメキシコの町と状況が似ている。

正確な情報がない中で人々は不安を抱えながら日々を過ごし、不確実なデマに流されやすくなっているのだ。

しかし感染症のパンデミックが異なるのは、そこに犯人がいないということだ(陰謀説もささやかれてはいるが)。

世界中がCOVID-19の1日も早い収束を祈っており、そのために協力して感染拡大を防ぐ必要がある。

 

もちろん一番大事なのは、手洗いうがい、不要不急の外出を避ける、といった地道な努力だ。

ただ「デマに流されない」という観点から考えると、私たちに求められるのは「情報を鵜呑みにしない」ことだと思う。

トイレットペーパーがない、と言われて焦る気持ちはわかる。誘拐事件の犯人が捕まった、と言われて怒りを感じるのもわかる。

ただそこで、買い占めよう、犯人を殺そう、という行動に走る前に、立ち止まって考えてほしい。「もしこれが嘘だったら?」と。

あるNPOが画期的な取り組みを行っている。SNSで真偽不明の情報が投稿された時、その対立意見となる投稿を関連として添付してくれるのだ。

ちょっとだけ立ち止まって、いろんな角度から考えてみる。そのちょっとした心がけの積み重ねが、もっと優しい社会を作れるかもしれない。

参考:https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20200405_2


 

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