シンガー 遥海さんインタビュー【第3弾】

インタビュー
+5

この度、VoYJ事務局は、「日本とフィリピンでの生活で培った様々な音楽的バックグラウンドと、喜怒哀楽の豊かな感情を声にのせ、日本語、英語を使ってハイブリッドに表現するシンガー」の遥海さんにインタビューをさせていただきました。

遥海さんは、13歳のときに日本語が分からないままフィリピンから日本に移住されました。言葉の壁につまずきながら葛藤した経験を経て、現在では、その高い表現力で多くの人を魅了していらっしゃいます。そんな遥海さんへのインタビューの様子を、全3回に分けてお届けしています。

最終回の今回は、歌を通して広がる遥海さんの社会貢献活動、メジャーファーストアルバム「My Heartbeat」への思いなどを伺いました。

これまでの様子はこちらから(第1弾第2弾

 

ー遥海さんは、ZIP-FMのラジオ番組「Midnight Getaway」を担当されたり、東京大学UNiTeが日本財団と共に企画したTRUE COLORS FILM FESTIVALの特別ゲストとして多様性に関するトークショーに登壇されたりと、音楽活動以外にも活躍の場を広げていらっしゃいます。こうした取り組みについてどのように考えていらっしゃいますか?

毎週ラジオをやってるんですけど、ずっと独り言を言っているような環境なんですよ(笑)。夜中の1時からの放送なので、疲れてしまったみんなの気持ちに寄り添ってポジティブな気持ちになってもらうことを考えています。どんな活動も歌がきっかけになっていますが、歌うことだけではなく、私の色んな思いを共有できたらと思って取り組んでいます。

曲だけを聴いていただくと、私はすごく強そうな人間に感じられて、怖がられてしまうこともあるのですが、実際はそうでもないんです。私のバックグラウンドを知ってもらうことで、歌にももっと共感していただけるようになると良いなと思っています。だから、ラジオやインタビューなど、歌以外の発信も大切にしていきたいと思っています。

聴いてくださる方に対して、ただ「大丈夫だよ」と背中を押すのではなく、「私にもダメなところがあるから一緒に頑張ろう」というように、みんなに寄り添っていける歌手でありたいです。私も一人の人間なので。

 

撮影:冨田了平

 

ー国連障害者権利条約締約国会議では、テーマソングの「I’ll be there just for you」を歌われ、SDGsをテーマとしたTOKYO MXのTVアニメ「BABY-HAMITANG」では、主人公の声優を務められています。SDGsに関わる活動や、社会のために何かをしたいという思いは、どんなきっかけで芽生えたのですか?

小さい頃からの学びが原点にあると思います。私の小学校はクリスチャンスクールで、人を助ける活動を大切にしていたんです。例えば、貧しい地域の子どもたちが通うシスタースクールに行って、食べ物や服、鉛筆やノートを配ったりすることがよくありました。

また、フィリピンでは、働かないとその日の食べ物さえ得られない状況にある子どもたちが多くいます。ですから、必要な人たちに食べ物や生活用品を提供するといったことが身近で、また、さまざまな人の状況を知ることで、優しさの連鎖があることを知りました。与える、与えられることに上下関係があるのではなく、困っている人がいたら助けるということが当たり前になっていきました。

 

2021年国連障害者権利条約締約国会議イベント「Diversity, Disability and Inclusion: Broadway Master Class」
(「I’ll be there just for you」は4分55秒頃から)
https://media.un.org/en/asset/k11/k11iscyo4y

 

ー優しい気持ちが、遥海さんの原点になっているんですね。ご自身の歌や活動を通して、どんな思いを届けたいと思っていらっしゃいますか?

私の音楽や活動を通して届けたいもの、それは優しさです。

でも、私も、小さい頃は、クラスの中でも「私が一番!」と威張っているようなやんちゃな子どもでした(笑)。当時の私を知る人に、私のことを訪ねても「優しい」なんて言葉は出てこないと思います(笑)。

でも、日本に来たときに言葉を失う経験をして、たくさんの人の想像を超えるような優しさに助けられて、優しい気持ちの大切さに気づけたんです。そんな経験をしたからこそ、私の音楽を通じて優しさをお返しできたらなと願うようになりました。神様は、優しさの大切さを教えるために、私を日本に連れてきてくれたのかな(笑)。

この世界をより良くしていくことも、優しさが基本になると思うんです。みんな肌の色も、考え方も違えば、育った文化も違う。そんな世界の中で、優しさは、お互いの違いやバックグラウンドを尊重することにつながると思いますし、尊重し合うことが、平和な未来を作ることに繋がると思うんです。

 

ー日本に来られてからの忘れられない優しさの思い出をご紹介いただけますか?

中学1年生のときの担任の先生は、英語が得意ではない国語の先生で、みんなから少し怖がられるような人だったんですね。でも、私にとっては違いました。その先生は毎朝、慣れない英語でノートに時間割や教室の場所を書いて渡してくれたんです。授業中に急に指名されて、咄嗟に「はっ?」などと言ってしまうことがあっても、先生は、私の育った文化が違うことを理解してくれて、怒ったりしませんでした。

日本語がわからなくて、つま先立ちで歩いてるみたいで、「学校は怖い」と思っていたけれど、その先生が私の名前を呼んでくれるだけで、「よし!今日も頑張ろう!」と思えて。

でも、その先生が、ある日、突然倒れ、亡くなられてしまったんです。日本に来てまだ一年も経っていないのに、初めてのお葬式に行きました。

私にとって当たり前の優しさが、実は当たり前ではなかったことを知った瞬間でした。ありがとうも言えずに、今の姿も見せられないうちにいなくなってしまった。その先生の優しさは忘れられないし、忘れたくないです。

 

ー遥海さんが受け取った優しさが、歌を通して伝わって、私たちも温かい気持ちになることができます。優しさの循環って、素敵ですね。

1月26日には、メジャーファーストアルバム「My Heartbeat」がリリースされました。このタイトルに込めた思いや、アルバムについてお聞かせいただけますか?

テーマは、喜怒哀楽です。失恋した女の子、何か壁にぶつかって頑張っている人、挫折してしまった人、コロナ禍を超えた世界への希望、その時々の色んな人の気持ちに寄り添えたらと思ったんです。

私たちは、heartbeat(鼓動)がないと生きていけませんよね。そして、自分の心の一番近くにあるものであるこの名前をつけました。

ジャケットは、私がマーブリングしたものです。小さい頃の写真、ダンスをしていたときの写真、友達とご飯に行ったときの写真など、いろんな思い出が詰まっています。本当に一から関わって出来上がった作品なんです。自分の子どもみたいに大事な存在ですし、みんなの心のそばにも置いてほしいなと思っています。

 

遥海 1st アルバム「My Heartbeat」

CD購入:https://harumi.lnk.to/MyHeartbeat
ダウンロード・ストリーミング: https://VA.lnk.to/f0hx4I

 

ー最後に、このインタビューを読んでいるユースの皆さんへのメッセージをお願いします。

自分を見失わないでほしいなと思います。10代や20代って、悩みが多かったり、環境に適応していくために自分を見失いそうになったりすることもありますよね。「なぜ生きているんだろう?」といった不安定な気持ちになることもあるかもしれません。でも、そんなときこそ、自分が大事な存在だということを忘れないでほしいですし、自分に優しくあってほしいです。そして、大変なときは、声をあげること。誰かに助けを求めてもいいんだよと伝えたいです。

 

いかがでしたか?ときに優しく、力強く、私たちの心に寄り添ってくれる遥海さんの歌。その背景には、日本とフィリピンでの様々なご経験、たくさんの優しさとの出会いがあったのだということを強く感じました。

3月には、メジャーファーストアルバム「My Heartbeat」を携えて、東名阪ツアーが予定されています。これからも、遥海さんの歌や言葉を通して、優しい気持ちの輪が広がっていきますように。

(by 飯山智史菅田利佳


 

+5