シンガー 遥海さんインタビュー【第2弾】

インタビュー
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この度、VoYJ事務局は、「日本とフィリピンでの生活で培った様々な音楽的バックグラウンドと、喜怒哀楽の豊かな感情を声にのせ、日本語、英語を使ってハイブリッドに表現するシンガー」遥海さんにインタビューをさせていただきました。

遥海さんは、13歳のときに日本語が分からないままフィリピンから日本に移住されました。言葉の壁につまずきながら葛藤した経験を経て、現在では、その高い表現力で、日本はもちろん、国連等を通して、世界中の人々を魅了していらっしゃいます。デビュー・アルバム「My Heartbeat」や、主人公の声優を務めるTVアニメ「BABY-HAMITANG」が話題の遥海さんへのインタビューの様子を、全3回に分けてお届けしています。

第2弾では、遥海さん自身の​​アイデンティティの話、国連でも披露された楽曲「weak」と『科捜研の女』の主題歌で、昨年、日本シリーズで優勝したヤクルトスワローズ村上宗隆選手の入場曲としても知られる「声」、コロナ禍での変化、歌への思いについて伺いました。

第1弾はこちらから


ー2つの国にルーツを持ち、それぞれの国を行き来していると、自分の居場所を見失うことがあるという話を聞いたことがあります。現在の遥海さんご自身のアイデンティティについて教えていただけますか。

フィリピンにいた頃は、「草ケ谷遥海」という日本名で生活していたので、「自分はフィリピン人ではない。居場所がない」と感じることがありました。母がフィリピン人で父が日本人である私は、「国」を基準にして自分の完全な居場所を探そうとしても、見つからないのかもしれない。それなら、自分の中で自分自身の違いを認め、どこにいても、その時にいる場所を自分の居場所にすれば良いと思うようになりました。
今でも、「自分には居場所がない」と感じることはあります。音楽業界にいても同じです。でも、私には味方してくれる人がいて、そういう人たちが居場所を作ってきてくれたから、生まれてきた目的を見つけられ、今こうして歌を届けさせてもらうことができている。そのおかげで、いつのまにか居場所があるかどうか自体が大きな問題ではなくなっていきました。居場所を見つけるのは簡単なことではないけれど、まず自分を見つめ直すことが大切なんだと思います。

ー遥海さんの楽曲「weak」にも通じるお話のように思いました。遥海さんといえば、エネルギッシュで聞き手を奮い立たせてくれるような曲も印象的です。しかし、「weak」では、自分の弱さをそのまま受けとめることを歌っておられます。この曲には、どんな思いを込められたのですか。

「weak」は、自分をさらけ出した曲です。
私は、正直に言うと、「頑張って自分を強く見せようとしている、弱い人間」なんです。
一人になると途端に弱気になって心が闇に沈み、落ち込んだりマイナス思考になったりすることがあります。まるで真っ暗な狭い部屋で、まだ知らない自分の感情が段ボール箱に潜んでいるような感覚になることがあります。
そんな私が「weak」で伝えたかったことは、「自分の弱さを認めることも強さ」だということです。人は生きていく上で色んな人に「迷惑をかけて生きている」かもしれないけれど、それは「助けを求めながら一生懸命に生きている」と言い換えることもできると思うんです。
「weak」は、「弱いこんな自分でも、愛してくれる?」と、そばにいてくれる誰かに問いかける歌です。そんな気持ちは家族にさえほぼシェアしたことがないのですが、歌を通して弱い気持ちを初めてさらけ出した曲なんです。
たとえ弱い部分をさらけだしても、きっと誰かがそばにいてくれるということを表現したくて、この曲を歌っています。歌う度に泣きたくなるような、大好きな歌です。

ー私たちから見る遥海さんは完璧に見えます。でもそんな遥海さんですら、誰もが持つ不安を抱えて生きておられることを「weak」は伝えているんですね。

完璧な人間なんて決していないし、誰もが、心の中の寂しさを埋めようとしているんですよね。「weak」には、「大丈夫じゃない時や心が弱くなる時があっても大丈夫。そのままでいい」というメッセージが込められているんです。時には「頑張らなくていいや」と息抜きすることも大切ですよね。

国連の2021年国際障害者デー・イベントで「weak」と「I’ll be there just for you」を歌う遥海さん

https://voiceofyouth.jp/idpd2021(8分35秒~スピーチ、「weak」、「I’ll be there just for you」歌唱)

ー遥海さんが歌われた『科捜研の女』の主題歌「声」は、耳に届く「声」だけでなく、声にならない声や目に見えないものに心を寄せることの大切さを歌われている点で、VoYJの目指す世界とも繋がっているように感じました。この作品に込めた思いをお聞かせいただけますか?

「声」を歌うためには、覚悟がいるんです。最初、歌詞を書き出す中で、これまで何気なく使ってきた声という言葉が、実は深い意味を持つことに気づきました。
日本に来た当初は、日本語がわからず、学校で先生が話していることも、黒板に書いてくれることも分からなかったんです。それはまるで、声を失ってしまったような感覚でした。
実は、「声」という歌と向き合った時、あの頃の辛さがフラッシュバックのように蘇り、当初、歌うのが怖かったんです。それなのに、曲の最後の部分で「響かせていくよ 私の声」という歌詞があり、こんな思いを響かせて良いのだろうかと自問自答していました。

同時に、「目に見えないもの」ってなんだろうとも考えました。
例えば、SNSが広がった現代の社会で、私たちは、目に見えるものが全てであるかのように考えてしまうことがあるように感じます。SNSが発展する前は、「好きな色は何?」「好きな食べ物は何?」といった会話を顔を見合わせてしていたのに、今では、SNSを見ればその人のことを全て知っているかのように感じて、片付けてしまうことがありますよね。そんな時代だからこそ、言葉や声でコミュニケーションを取って、お互いの内面を知ろうとすることの大切さに気づかされることがあって。今では、声を上げることの大切さ、声を伝えることの大事さに思いを馳せて、自分の心の声や周りの人たちの声に耳を傾けて歌っています。
日本では、自殺が多いですよね。もしかすると自分の「辛い」という声を上げられないことが関わっている場合もあるのではないかなと思うことがあります。そういう人たちの気持ちを受け取り、時に代弁して、発信していけたらなと感じています。

そうは言っても、私自身、自分が頑張って歌を歌っても、誰にも、どこにも届いていないのではないかと疑うこともあります。けれど、ヤクルトの山田哲人選手や村上宗隆選手※が自分の知らないところで私の歌を聴いてくださっていたりして。だから私は自分の歌を通して、誰かが孤独を感じているとき、決して「一人じゃない」と伝えられたらと思います。そういう気持ちを込めてこの「声」を歌いました。
※東京ヤクルトスワローズの山田哲人内野手は遥海さんの「Pride」を、同じく村上宗隆内野手は「声」を登場曲にしている。

ー今のお話の中で「伝える」「コミュニケーション」「一人じゃない」といった言葉がありました。コロナ禍で一人ひとりが隔絶された世の中になり、聴き手の顔が見えない時間が続いたと思います。その中で、思いの変化はありましたか。

コロナ禍で実感したのは、手放すことの大切さと、自分でコントロールできるのは自分の感情だけだということです。私は誰とでもすぐに友達になれるタイプですが、コロナ禍で社交ができない中で、何が自分にとって1番大事なのかを見つめ直すことができました。ずっと誰かを失うことが怖かったのですが、自分のことを大事にしてくれる人と、自分が大事にしたい人がいてくれさえすれば大丈夫だと思い、手放すことが怖くなくなりました。コロナで色々なものを失った一方、大人になるための大切な何かを学んだのではないかと思います。
感情をめぐる考え方も変化しました。例えば、怒りに任せたりせず、自分の言動を後悔しないようになりました。
また、歌を聴いてもらえることが当たり前ではないことに気づかされましたね。
私はコロナ禍の前から、YouTubeで「ミュージックテラス」という生配信をしているのですが、オンラインで音を届ける手段を持っていることが、自分の力になってくれていると感じています。
コロナ禍を経験したことで、新たに歌いたい曲が生まれたりもしましたし、様々な経験自分の引き出しにできたらと感じています。人前で歌う機会がない分、SNSをよりオープンに使うようにもなりました。3月にはついに有観客ライブがあるので、そこで気持ちを爆発させたいです。そして、どんな状況にあっても、「音楽は死なない」ということを強く感じ、表現したいです。

ー遥海さんは、聴き手とどんなふうに繋がりたいと思っていますか。また、これから歌ってみたい曲があれば教えてください。

歌は、その時自分が持っているものしか聴き手に伝えられないと思うんです。自分がハッピーでないと、相手にもハッピーな気持ちになってもらえない。逆に寂しい気持ちで歌うと、寂しさが伝わります。ライブでは、日によって気持ち、音、空気、出来事などが異なりますから、同じ表現は二度とできないんです。
「声」や「Pride」を歌うときには、タイムトラベルのように、自分の声を失っていた13年前の感覚が戻ってきます。また、「記憶の海」は、失恋した時にできた曲なので、その時の感覚が蘇るんですね。それを通して、聴いて下さる方と繋がれるように感じます。
これから歌ってみたい曲はたくさんあります!誰かの応援歌や、同年代の方が共感できる曲、恋愛ソングなども歌いたいと思っています。常に身の周りにある日常を曲にすることで、共感が生まれると思うからです。
今年は、「楽しむ」ことを大切にして、やりたい気持ちを形にしながら曲を届けていきたいです。

ー遥海さんの歌の数は日常における思いの数なのですね。

本当にそうです。言葉下手だし、恥ずかしくて思いを表現できないので、思いを形にするように曲を作っています。たとえ自分が書いた曲でなくても、私が歌う曲は、歌いたい、表現したいと思って選んだ曲なので、全部が私の引き出しのようなものです。喜怒哀楽を大事にして歌を届けたいと思います。

ー遥海さんの表現の力は、心と向き合っているからこそ、聞き手の心をぐっと掴んで離さず、まるで私たちの気持ちを代弁してくださっているように感じるのだと思いました。
いかがでしたか?遥海さんご自身のアイデンティティの話や、「weak」「声」などの曲への思い、コロナ禍での変化から、歌う際の内面化と思いの引き出しの話まで遥海さんの内面に迫る深いお話をたくさん聴くことができました。「音楽は死なない」、遥海さんの言葉には不思議な力があります。

第3弾は、歌を通して広がる遥海さんの社会貢献活動、メジャーファーストアルバム「My Heartbeat」への思いなどを伺います。
お楽しみに!

(by 金澤伶柳田有里佳

遥海 1st アルバム「My Heartbeat」

CD購入:https://harumi.lnk.to/MyHeartbeat
ダウンロード・ストリーミング: https://VA.lnk.to/f0hx4I


 

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