占いとサイエンス

ボイス
+7

3、4年ほど前に太極拳サークルで占いを覚えて、ときどき友人や自分自身を占っています。今でこそ占いを楽しんでいる私ですが、もともと占いを信じるタイプではなく、どちらかといえば非科学的であると敬遠していました。今回はそんな私が占いとどう向き合っているかを書いてみたいと思います。

はじめに私がたてる*易占い(えきうらない)について簡単に説明します。易占いは易経という中国古来の書物に基づいていて、古くは王が戦の進退を決めるために用いたと伝えられています。もう少し細かくいうと、「八卦(はっけ)」の考え方が易占いのもとになっていて、古代中国の人々は世界を8つの要素に分けることで理解しようとしてきました。道端で長い棒を束ねてジャラジャラやっている占い師がいれば、易占いとみて間違いないと思います。

占う対象は、運勢、天気、健康、仕事、恋愛などさまざまです。しばしば誤解されるのですが、易占いは未来を確定させるものではなく、あくまでアドバイスを与えるものだと捉えています。「易」という漢字に「かえる・かわる」という意味があるように、易占いの世界では未来は変化しうるものと考えられています。なので、たとえよくない卦**が出たときも、こうすれば良くなるという指針を与えることが易占いの役割の1つであると思います。 

さて、この文章は占いが科学的であることを主張したいわけではありません。しばしば伝統文化が実は科学的であると主張されることもありますが、両者が矛盾なく一致することはあり得ないですし、それぞれの世界観の中で理解するものだと思います。とはいえ、科学を中心とした世界に生きる私たちにとって、それと伝統文化的なものをいくらか和合させることにも意味があるとも思うので、まず「易占いは科学的ではないが、非科学的とまでは言い切れない」点について書いてみたいと思います。

「科学的」とはなんでしょうか。もし、科学的という言葉を「物理学の諸法則に従うこと」や「因果関係が明らかであること」ととらえると、易占いは非科学的といえます。一方で、普遍性や実証性、再現性などの要件を満たすものを科学的と呼ぶのであれば、易占いにもまだ可能性は残されています。易占いがそれらの要件を満たすかは,出た卦と結果のデータを照合していけばわかるかもしれませんが、それをしないうちは非科学的とは言い切れないと思います。こうした検証をしないままに、なんとなく怪しげだから非科学的というラベルを貼ってしまうのは、むしろ科学的な態度とはいえないのかなと思います。

ただ、先に述べたように私は本来、易占いは科学の枠組みで理解するものではないと思っています。易占いが中国思想の体系の内側で論理的で矛盾がないのであればそれでいいのではないかと思いますし、もう1つの理由として易占いがどこまでも個別的なものだからです。科学は普遍の真理を追求するものですが、易占いは個人の日常レベルの答えを提示します。そして私はこの普遍の答えと日常レベルの答えは、ある程度分けて考える必要があるのかなと思っています。

例えば、ある人がありありとした幽霊を知覚したとして、客観的にはその幽霊はただの紙切れだったのかもしれませんが、少なくともその人の日常的な体験として幽霊は真実といえると思います。先日、オックスフォード帰りの研究者から、イギリスの一流の科学者に禅やヨガをやっている人が多いという話を聞きました。それらがあまり科学と結びつかないので意外だったのですが、彼らの日常において心身を整える禅やヨガに意味があると体験的に感じて,やっているのではないかなと思いました。

最後に私にとって易占いがどのような役割があったかをお話しします。私は自分の占いがそこそこ当たるのではないかと思っているのですが***、実際のところどうなのかはよくわかりません。しかしもはや私にとっては、占いが当たるかどうかは最大の関心事ではなく、占いをたてること自体に意味があります。私はしばしば部活の大事な試合の前に占いをたてました。それは何が起きるかわからない勝負に対して一筋の見通しを立てることであり、その心構えをすることで安心感を持って試合に臨むことができました。

統計学にベイズ推定****という推論方法があります。私が占いをたてる感覚は、このベイズ推定ではじめに任意で事前の予測を設定する感覚に近いです。あくまで事前の予測であるというのは、その後の振る舞いによって予測が更新されうることを示しています。どうなるかさっぱりわからない未来に対して1つの予測を立てることは、不安を減らし行動を促す点で有効だと思いますが、それが何千年もの間に時代の評価にたえて生き残ってきたツールであれば尚更です。私は世の中の荒波を渡っていく1つの武器として、この占いを用いています。

*易占いをすることは「占いをたてる」と表現されます

**易占いで出したかたち。吉兆を判断するもとになるもの

***易占いでは卦の解釈が重要となってくるので、人生経験を積むにつれて徐々に卦を読めるようになっていくのかなと考えています

****「おおよそ〜なる」という確率的な推論の1つ。事前確率を得た情報で更新することで事後確率を導き出す

+7