UNFPAインドネシア事務所 内野恵美さんインタビュー【前編】

インタビュー
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国連人口基金(UNFPA)インドネシア事務所 人道支援プログラム・アナリスト 内野恵美さんのインタビューを全2回に分けてお送りします。

前編では、現在のお仕事と、その中での内野さんの意識や取り組みについてお話を伺いました。

 

【内野恵美さんの経歴】

上智大学在学中にUNFPA東京事務所ボランティア。卒業後は民間企業やNGO、外務省での勤務を経て、コロンビア大学ソーシャルワーク大学院修士号取得。在学中も、インド・アメリカのNPOにて経験を積み、卒業後は南米ガイアナ共和国の国連開発計画(UNDP)にて女性の災害管理能力強化に携わる。2019 年11月より現職。

 

・現在、どちらの地域でどのようなお仕事をされているのですか?

UNFPAインドネシア事務所で、人道支援プログラムアナリストとして働いています。2019年11月に、JPO制度を使って現在のポストに就き、今はインドネシアのジャカルタに住んでいます。

メインの仕事は人道支援で、特にインドネシアは自然災害が多いので自然災害時の支援を行うことが多いです。他にも、コロナパンデミックの緊急支援や、高齢者の保護、ジェンダーに基づく暴力(GBV)に関するプログラムの実施、広報、資金調達などを行っています。

具体的には、コロナパンデミック発生後は、アジア太平洋地域事務所とともに、特に感染や孤立のリスクの高い高齢者の保護に関するガイドラインを作成しました。また、日本政府に対してコロナ対策プロジェクトの提案を行って資金を調達し、実施に必要な人材の採用や調達、事業実施機関との調整なども行っています。

このように、インドネシアでは現場で現地の人たちに直接的な支援をするというよりも、ガイドラインなどの政策に携わる仕事が多いですね。というのも、UNFPAの中でも、対象とする国の発展状況や開発課題によってどういう介入をするかが変わるんですね。インドネシアは中所得国なので、自分たちが主導してプロジェクトを行うというよりも、政策の助言をしたり、現地のNGOに委託したりすることが多いです。ただ、今年もインドネシアでは洪水や地震があったのですが、そのような大規模な自然災害の際は現地に出向き調査やプログラム実施監督をしています。

 

・先ほど、人道支援プログラムアナリストというポストに就いているというお話がありましたが、プログラムアナリストとはどのような役割なのでしょうか?

UNFPA内ではJPO制度で入るとみんなプログラムアナリストという職務に就くことになっています。仕事内容は所属先や専門性によって多岐にわたりますが、プログラムの実施・監督や、政策のアドバイス、コンサルタントを雇って政策を作る際はそのコンサルタントの監督なども担当することが多いように思います。

インドネシア事務所は現地スタッフが多く、彼らの能力も高いので、常日頃から自分に出来ることを考えて取り組んでいます。インターナショナルスタッフの強みを生かせる海外政府ドナーとの交渉や資金調達、対外発信(広報業務)を担当したり、大学院で学んできたことを活かして事業のレポートを書いたり、幅広い役割を受け持っています。

2018年のインドネシア・中央スラウェシ地震後にUNFPAが支援している、被災者向けのリプロダクティブ・ヘルス・クリニックにて。助産師に住民のニーズやサービス提供状況を聞き取りしている様子。

・7月11日は「世界人口デー」です。「人口」に関する問題は一見馴染みがないように感じてしまいますが、ユースにも関係があるのですか?

UNFPAは、人が安全で満ち足りた性生活を営み、結婚をするかしないか、子どもを産むか産まないか、産むなら何人産むか、といった一人一人の性と生殖に関する選択の結果が「人口」というものを形づくっているという考え方をします。ですから、国勢調査などのマクロな観点による支援から、女性も男性も含めた一人一人が性と生殖に関する決断をできるようにする、というミクロの観点による支援まで行っています。

その中で、世界の約18億人を占める若者は、ジェンダーに基づく暴力(GBV)に遭うリスクや児童婚のリスクが高いです。若いうちに性と生殖に関する情報にアクセスできるか、自分のからだや将来について自己決定できるかは、その人の人生だけでなく、家族やコミュニティーの発展にも関わります。

UNFPAでは、“My body, my life, my world”という戦略をかかげ、若者が自分たちのからだや人生に関する選択ができて、自分たちのコミュニティや世界に参加・貢献していける環境づくりを支援しています。

具体的な活動として、インドネシアでは、学校での性教育が不十分なため、強化するとともに、学校以外のチャンネルを通して性に関する教育や情報が届くようにしています。例えば、学校のカリキュラムづくりや教員のトレーニングを行なったり、インフルエンサーやジャーナリストと共働して正しい情報を流してもらったりしています。

他にも、インドネシアに来て「進んでいるな」と思ったのが、政策を作るときに若者や当事者の声を聞いていることです。UNFPAの長年の働きかけもあってか、例えば今年SDGsの進捗評価レポートを政府が作成するときに、若者たちとの協議の場を自然に設けているところを見てとても感動したのを覚えています。若者が意見を言って、「聞き入れられた!」と感じられる環境って、とても大切だし、その成功体験ってその人の財産になりますよね。

2019年のインドネシア・アンボン島地震直後にUNFPAがディグニティキットを配布した地域を再訪し、キットの中身や配布方法の改善点、現在の生活状況、GBVのリスクを聞き取り調査しているところ。

・ユースの意見を取り入れて政策を作るインドネシアの仕組みが、とても素敵だなと感じました!けれど、一方でユース団体と政策決定者がつながるのが日本ではまだ進んでいないように感じます。UNFPAインドネシア事務所では、どのようにユース団体と繋がっているのですか?

私たちがユース団体とつながるときには、偏りがないよう、どこか単独のユース団体とつながるのではなく、ユース自身に組織立ててもらったユースネットワークと協働するようにしています。

また、UNFPAインドネシア事務所では、去年までユース・アドバイザリー・パネル(YAP)という仕組みがありました。ユースネットワークの中でも特に関心の高い若者を、インターンではなく「アドバイザー」の立場でUNFPAに参加してもらい、プロジェクトに関する意見交換をしたり、私たちのSNSなどで代わりに発信してもらったりしています。

「若者にリーチするにはインスタグラム使わなきゃダメですよ」など、YAPメンバーに指摘してもらうこともあって、勉強にもなるし、何より対等な立場で話ができるので楽しかったです。昨年、コロナ禍での若者の生活の変容に関しての調査を行ったのですが、その際も調査の立案段階から関与してもらいました。

 

・情報が届きにくい人もいると思うのですが、そのような人々にはどのようにアプローチしていますか?

出来る限りいろいろなチャンネルを通じてリーチアウトすることで、様々な人にアプローチできるようにしています。学校や先生を通じて、というのは昔からある方法ですが、ドロップアウトしてしまう学生も多いので、先ほどのインフルエンサーと協働してソーシャルメディアを活用したり、保健クリニックの出張サービス、地域のコミュニティセンターといったチャンネルも利用しています。ただ、学校に通っていない若者とは繋がるのが難しく、今後の重点分野にもなっています。

世界のユースに目を向けてみると、コロナ禍の若者の生活に関するレポートでも、教育とメンタルヘルスに関する問題が多く出てきていました。インドネシアではまだオンライン授業が続いており、デジタルデバイスを持っているかどうかで受けられる教育が変わってくるなど、格差が広がってしまっています。家で時間を過ごす時間が長くなり、インターネット中毒になってしまうなど、メンタルヘルスに対しても強く影響が及んでいることがわかります。

 

・お仕事の中で、またご自身の中で声なき声に耳を傾ける取り組みや意識があれば教えてください。

大学院でソーシャルワークを学んでいたときに、 ‘Who is missing in the dialogue?(誰の声が見落とされていますか?)’ といつも聞いてくる先生がいて、誰の声が見落とされているのかを考えることが癖づけられました。今でも、政策を決める時やミーティングの場では、誰の声が聞こえていないのかをまず考えています。’Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めるな)’ という言葉があるように、ユースや高齢者、ジェンダーに基づく暴力(GBV)の被害者にアプローチする中でも 、全てを当事者の意見を聞いてから決めていくことが大事です。例えば、私たちが震災時などに当事者の方々に配るディグニティキットの中身を変えようと思った時にも、必ず当事者の方から「こういうものを入れたらどうか」という意見を聞いてから決めるようにしています。

それから、もう一つ気をつけていることは、ジェネラライズ(一般化)しないこと。「高齢者の人たちはコロナ禍でこのように苦しんでいる」などと、グループでまとめて彼らの状況を決めつけてしまうと、そのグループの中にいろんな人がいることを忘れてしまいます。私が高齢者向けの政策を書く際「高齢者がどれだけコロナ禍で脆弱か、社会の中で脆弱か」という一般論はもちろん書きますが、高齢者全員が弱い立場にあり、守られる必要があるわけではないということを把握することが大切です。高齢者の中にも、NGOで活動しているようなアクティブな方もいらっしゃいますから、そういう人たちもまとめて「弱いから守らなければいけない」と言ってしまうと、その人達の力も奪ってしまうことにもなりかねません。一般化せずに、グループの中にもいろんな立場の人がいるということを意識するようにしています。

 

・女性として国連機関で働くなかで、働きやすさや働きにくさがあったら教えてください。

国際機関は、女性のロールモデルがたくさんいるということと、家庭との両立に対して理解があるので、非常にいい職場環境だと思います。実際、UNFPAインドネシア事務所の職員は53人いるのですが、そのうち7割くらいが女性です。私の上司も2人とも女性であるように女性のロールモデルが周りにたくさんいて、働きやすさにつながっています。

それから、私がとても驚いたのが、男性もいるミーティング中に、搾乳をし始めた同僚がいたことです。それを見て私はかなり驚いたのですけど、他の職員は男性を含めて何も気にしていないという感じでした。UNFPAが特にお母さんと赤ちゃんを対象にした団体ということも関係していると思うのですけど、お母さんと家族にとても優しい職場だなと感じられた場面でした。以前所属していた別の国際機関でも、家庭を理由に早退したり、働き方を調整したり、子どもを職場に連れてきたりしている同僚もたくさんいましたね。

一方で、働きにくさはあまり感じないんですけど、難しいところが一つあるとしたらインターナショナルスタッフは転勤が多いことにより、家族を作ったり、長期的なプライベートの計画が立てづらいということですかね。実際に家族を作ろうとなると、パートナーとお互いどのように調整できるか、考える必要がありますしね。男女比べると女性の方が両立が難しいと感じる人が多いようで、実際、国連スタッフの中で男性と女性を比べると、女性の方が未婚率や離婚率、子どもの数における理想と現実のギャップが高いといったレポートも出ています。

あとは、インドネシアに来てからはあまりないのですが、前にいた南米のガイアナ共和国では電波も届かない僻地に一人で出張に行ったり、自衛のため、常にトランシーバーを携帯しなくてはいけないなど、セキュリティー面でも不安を感じることはありました。出張中はドライバーの同僚が文字通り体を張って守ってくれるので安心なのですが、それぞれの任地の特徴をとらえたり、身を守る術を身につけるのは大切ですね。

UNFPAインドネシア事務所の同僚とともに。大切なイベントの日や毎週金曜日はインドネシアの伝統衣装であるバティックを着ます。

 

・内野さんはUNFPAで仕事をしていらっしゃいますが、国連機関の中でも組織間で女性の働きやすさ・にくさに違いがあるということはあるのでしょうか?

分野によって多少の違いはありますが、どこの組織でも女性が働きやすい環境づくりに取り組んだり、ジェンダー平等を指標にしたレポートも出しているので、女性が働きやすい環境づくりを進めているとは言えると思います。

これは男女問わずですが、国際機関それぞれマンデート(業務)が違うので、現場主義でディープ・フィールド(開発途上国の農村や紛争地など)で働くことの多い組織は、生活や教育へのアクセスの面での大変さはあると聞いています。ですから、そういう現場主義の組織に務める職員は、一定期間、家族と離れて暮らしている方も多いです。国連組織のどのようなところでどんな仕事が多いのかを調べて、自分がしたい働き方・生き方とすり合わせするのがいいのではと思います。

 

・お仕事をしている中で大変なこともあると思うのですが、自分自身のメンタルヘルスはどのように保っていますか?

この仕事をしていて精神的に一番辛かったのは、前回のポストでガイアナ共和国にいた時でした。犯罪が多い国で簡単には外にも出られなかったので、毎日ご飯が食べられて仕事ができて安心して生活できる、という最低限の安全性の大切さを知りました。

その時を振り返って、してよかったと思うことは、自分がどのように感じているか(辛いと思ったこと)を特に現地スタッフに伝えることです。インターナショナルスタッフが不安に思うことは、伝えないと現地スタッフには分かってもらえないので、何も言わずにモチベーションだけ下がっているとやる気がないと思われてしまいます。現地スタッフに相談して、助けて欲しいことなどを話せたことは自分にとって特に重要なことでした。

コロナ禍の今は筋トレや、仕事以外のアウトプットを大切にしていて、日記を書くなどして自分の思っていることを外に出すようにしています。

 

 

いかがでしたか?
後編では、ユース時代からキャリアパスについてお伺いし、ユースへのメッセージもいただきます。

 

 

~内野さん所属のUNFPAでは毎年「世界人口白書」を発行しています~

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