UNICEFレバノン事務所 杢尾雪絵代表インタビュー【後編】

インタビュー
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この記事は、UNICEFキャリアセミナー 『政府機関、民間企業、国際機関で勤務した私が考えるUNICEFで働く魅力-UNICEFレバノン事務所代表 杢尾雪絵氏にボイス・オブ・ユース JAPANが聞く』において、VoYJメンバーと杢尾さんが対談を行った時の様子をまとめたものです。

国事務所の代表を勤めながら、一児の母でもある杢尾さん。お仕事の内容に始まり、子ども・ユース時代について、UNICEFでのお仕事を始めるまでの経緯、ワークライフバランスについてなど、様々なお話をしていただき、また最後にはユース世代への力強いメッセージもいただきました。

後編では、ワークライフバランスやユース世代へのメッセージをご紹介します。

 

数年ごとに働く国と地域が変わる国連職員というお仕事をされる中で、家庭生活・子育てとお仕事の両立はとても大変だと想像します。杢尾さんはどのようにしてきましたか?

とても大切なご質問だと思います。子育てと仕事の両立はとても大変です。でも可能です。もし、最初からキャリアの追求と結婚・出産の両立が難しいのではないかと不安に思っていらっしゃる方がいたら、できないとは思わないでください。絶対に可能です。

また、例えば、結婚や出産で1~2年のブランクがあっても無駄になることはありません。もちろんキャッチアップもできます。現在国連職員の定年退職は65歳ですから、例えば、35歳で休暇を取ってもその後30年近く働くことができるのです。

ですから、皆さんには是非、長い目で物事を大きく捉えて、家庭と仕事のバランスを取った生活をしていただきたいと思います。そして、家庭と仕事のどちらかを取らなければならないのではないかと疑問を持たずに、是非挑戦して欲しいと思います。

私の場合は40歳まで独身でした。私自身、それまで「私生活とキャリアのどちらかを取らなければならないのではないか。」と思ってきたんですね。私は40歳を過ぎてから今の夫に出会い、実は47歳で出産をしているんです。晩婚・高齢出産をしたのですが、私は自分の家庭を持ったことで人生が変わりました。UNICEFの仕事にも非常に大きな良い影響があったと思うのです。私自身の人生の幅も広がったと思います。

国連に限らず、ユース世代の皆さんは、どんな場面にも負けずに、どんどん道を切り開いて男女平等な社会を作っていってください。

今私が働いているレバノン事務所には、私をはじめ、各部門のチーフが10人くらいいますが、その半分以上が女性です。みな結婚して子どもを育てています。そして、その多くは、私と同じように家族の大黒柱として働いています。中には男性がが主夫をしているという場合もありますし、私の夫は音楽家ですから、自分の創作活動を続けながら子育てをしています。実は国連にはそうした夫婦がたくさんいます。男女に関わらず、いろいろな形態の中から、自分たちで、自分たちが一番いい方法を選んでいます。シングルマザー、シングルファザーもたくさんいます。既成概念に囚われず、平等にいろいろな機会を持っていただきたいと思います。

 

社会への貢献といった観点から、政府機関、民間企業、国際機関のご経験をされてきた杢尾さんが感じる、それぞれの違いや共通点についてお聞かせください。

私の場合は、政府機関であるJICAの青年海外協力隊と、民間企業である建設事務所での経験が、国連機関での経験の他にありますけれど、働く機関や国によって多少の違いがあると感じています。例えば、政府機関などが行っている2国間協力(バイラテラル)では、その国がもっている目的を果たすことに主眼が置かれますから、そう言った意味では国連機関などが行っている多国間協力(マルチラテラル)との違いはあると思います。そういった具体的な方法や目的に関する違いをあらかじめ踏まえておくことは必要です。

ただ、政府関係者もそうですが、国際協力・国際開発・人道援助という枠組みに関わる人たちには「私がこの世界を変えていこう。」という信念や原動力が大きく共通していると感じます。一方で、人事状況や収入、労働条件など、個人的な条件が先に立ってしまうと、今お伝えした信念や原動力がブレてしまうのではないかと思います。ですから、自分が最終的にやりたいことは何なのか、その目的をはっきりさせるということが大切なのではないでしょうか。私の場合は、何十年も前に思った「どうしてこんなに世の中に格差があるんだろう。」という疑問を解決すべく、個人としてできることは少なくても、携わる人たちが一体となって国際開発に取り組むことで、社会を変えていくということを目的としています。そのためにSDGsがあるのだと思いますし、目指すべき焦点をはっきりと合わせていくことが大切なのだと思います。

 

先ほども少し触れていただきましたが、国際社会で活躍できる人材になるために、大学生の頃にしておいた方が良いことなどございましたら、教えてください。

UNICEFが求める人材の特徴として、多様性とインクルージョンという観点がよく挙げられますが、私はこの観点が非常に大切だと思います。アンコンシャス・バイアスと言いますけれど、既成概念に囚われてしまったり、自分とは異なる価値観や考え方を知らなかったりすることで、異なる価値観を持つ人たちを、無意識のうちに差別したり排除したりしてしまうということがあります。ぜひ学生の皆さんには、国際社会だけでなく、身近なところの格差・差別について関心を持ってもらいたいと思います。

それから、国際社会で働く際には語学力が必要となります。国連では2つの国連公用語を駆使することが求められていますので、英語だけでなく、フランス語やスペイン語、中国語、ロシア語、アラビア語といった他の国連公用語を学ぶことも大切です。また、語学力は言語力だけではありません。語学の勉強を通してコミュニケーション能力を磨くことも非常に大切です。

けれど、語学の勉強を始めるのに、遅いということは絶対にありません。今語学ができないからと言って諦めないでください。私の例を挙げますと、私は30歳近くになるまで英語が話せませんでしたが、今では英語を使って問題なく仕事をしています。さらに、英語のほかに、私は47歳で子どもを産んでからロシア語を勉強し始めました。今もアラビア語を勉強しています。なかなかすぐにはできるようになりませんけれども、いつになっても語学を勉強することは大切です。ですから、若い皆さんには、今からどんどん語学力を磨いていってもらえればと思います。

 また、今日本ではSDGsがいろいろなところで取り上げられるようになってきましたね。そういった身近なところから、国際協力に関わることに興味を持って、幅広く勉強していただきたいと思います。ぜひ、長く広い視野を持っていただきたいです。

 

杢尾さんが国連職員として最も大切にされてきたことは何ですか?

やはりワークライフバランスですね。

正直言って、初めはそうではありませんでした。キャリアを積むのに精一杯で、仕事中心の生活をしていた時もあります。けれど、今振り返ってみると、私の国連でのキャリアを考えてみた時に、大切になるのはワークライフバランスだと考えています。

実際、かつての私のように国連の中でも上層志向でキャリアアップを中心に考えている人が多いと思います。ですが、私は自己管理がきちんとできる人が、仕事で実力を発揮できる人だというふうに思っています。私自身も、家庭生活や私生活が良い状況にあるときには、自分の調整がうまくできて、仕事に対してもうまく自分の力を発揮できています。ですから、そういった意味でのライフワークバランスや、健康管理も含めた自己管理は、とても大切なことだと思います。私たちの仕事は24時間対応が求められる仕事ですけれども、その中でも自分で自分をきちんと管理することをずっと心がけてきました。ですから、若い世代の皆さんにも、自分をぜひ大切にして、自分のことをまず一番に考えた上で、自分の仕事を頑張っていっていただきたいと思います。

 

◯感想

影山舜「国際協力などの枠組みに関わる人たちには『私がこの世界を変えていこう。』という信念や原動力が大きく共通している」というお話が非常に印象に残っています。最前線の現場でご活躍されている杢尾さんが、この言葉を発することの重みを感じるとともに、気が引き締まる思いでいました。周りの友達が就職をして働き始める中、個人的な条件に目を向けたくなることもありますが、今感じている思いを大切にして、「自分が最終的にやりたいこと」をブラさないよう心がけていきます。
非常に力強くて、でも優しく応援してくれるようなお言葉をたくさん届けていただいて、より一層憧れが強くなりました。本当に貴重な機会をありがとうございました。

みなみ:憧れの杢尾さんに直接お話を伺うことができて、本当に貴重な時間でした。
私は当初、国際機関で働きたいと思いつつも、大学での今後の学びや卒業後について明確な指針がなく、少し不安を感じていました。しかし、杢尾さんのお話を伺って、たとえ国際協力とはあまり強い関連のない環境にいても、自分次第でなんでもできるのだと知り、不安が解消されました。また大切なのは周りの環境に流されることなく、自分の信念を貫いて、身近なことから着実に取り組んでいくことなのだと気づき、常に自分の問題意識を忘れずに、毎日を丁寧に過ごしたいと思いました。


 

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