UNFPAバングラデシュ事務所 成田詠子副所長【前編】〜UN75特別インタビュー〜

インタビュー
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9月20日の第93回五月祭にて、国連人口基金(UNFPA)バングラデシュ事務所の成田詠子副所長をお迎えし、公開インタビューをさせていただきました。これは国連創設75周年を迎える2020年、UN75企画の一環として行ったものです。

 

インタビューの様子は、前編と後編の2回に分けてお送りする予定です。今回の前編では、成田さんのお仕事の内容や、その中で体験したこと、お仕事をする上で大切にしていることについて伺いました。

 

【まずはじめに、ご自身の経歴・お仕事についてご紹介いただきました。】

– 現在は、どのようなお仕事をなさっているのですか?

幼いときから「国連で働きたい」という強い思いはずっとあったので、国連に辿り着いた時には「夢がかなったんだな」と感じました。今の副所長という役割は、簡単な言葉で言うと「なんでも屋さん」。所長とはまた少し違う立場、ナンバー2なので、いろいろなトラブルシューティングを任されます。主なフォーカスは、NYの本部によって承認を受けた5年間のプログラムを管理することなのですが、計画・デザイニング・実施・モニタリングのすべてに関わって、事務所を運営するのが副所長の役割です。この役割を果たすためには、さまざまな仕事を知っている必要があって、仕事の幅は大きいんです。国連の開発をめぐる活動の全般、プログラムの実施の仕方、人事、アドボカシー(政策提言)、経理、セキュリティなどのさまざまなオペレーションまで管理するという感じですね。

 

– UNFPAでのお仕事について教えてください。

主にUNFPAのマンデートは、性と生殖に関する健康、特に女性の健康を促進することです。その上では、若者の潜在能力や意識の向上が重要になりますので、若者と接触することが多いんですよね。中でも、わたしたちがバングラデシュで特に力を入れて取り組んでいるのは、児童婚・早婚を阻止すること。バングラデシュは南アジアで一番早婚の割合が高い国で、現在20〜24歳の女性の24%が、15歳未満で結婚しています。また、年間の妊婦死亡数が5500件にものぼっているので、それをゼロにして母子健康を推進することにも力を入れています。
また女性の健康というのは、単に身体面だけでなく、メンタル面にも及びます。また、ジェンダーに基づく暴力を阻止し、サバイバーへのサポートをすること。それと、LGBTIQに対する福祉や医療のサポートをすることなども行っています。これらはUNFPAのユニークなところだと思います。このように健康といっても身体的な面からだけではなく、幅広く精神面や人権という面からも取り組んでいます。
こうした課題に対してプログラムを推進しているわけですが、わたしとしては女性ということもあって、UNFPAでの仕事はやりがいがあると毎日感じています。日頃いろいろなプログラムを推進するにあたって疲れることもあるのですが、幼いときに思った「国連で働きたい」という気持ちは変わっていないので、「すごくやりがいがある仕事だな」と毎日確信しながら取り組んでいます。

 

 

【メンバーから、今までの体験やお仕事をする上での心構えについて、いくつか質問をさせていただきました。】

– 女性として国連で働くことを通して、自分だからこそできたと思うようなことはありますか?やりがいを感じたエピソードなどがあれば具体的に聞かせていただきたいです。

女性だからできることというのはやはりいろいろあると思うんですよね。これは国連に限ったことではなく、他の仕事でもそうですが、そう考えられることは重要だと思います。女性だから・アジア人だからという意識は、不平等性を体験しているんじゃないかとか、必然的にネガティブな方に行くことが多いと思うんですよね。世界に男女・人種の不平等が存在する限り、そうしたことはなくならないと思いますし、国連でも全くないというわけではありません。ただ、だからといって萎縮したり、「自分の意見は通らないだろうな」などと思ったりはしないように仕事をしています。
例えばイエメンでの体験ですが、人道支援のような仕事の現場というのはやはり男性が多いんですね。しかも軍とか警察の方とお仕事をすることも多かったんです。そういう時は、「男性がたくさんいる中に自分が女性としてここにいるということには何らかの価値があるのだろう」「その価値を伝えることを自分は頑張らなくてはいけない」と心のなかで発破をかけていました。
いろいろな女性の悩みというのは、女性が発信するからこそ信用性や説得力があると思います。わたし自身、幼い時に登校拒否をした体験があるのですが、その後にインターナショナルスクールに通ったんです。そのときのわたしはマイノリティ(少数派)に属していたと思うんですね。だから「そうした人の気持ちがわかるのではないか」と思いますし、「社会から周辺化されている人たちを助ける重要性、その中での友達や家族、特に親の重要性というのを、他の人に伝えることができる」と思います。

 

– 現在のお仕事の中で、声をあげにくい人にどのようなアプローチをしているのかについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

国連で働くからには、やはりマイノリティの立場にある方々のための仕事を大切にすることが大事だと思うんですよね。仕事の中では、まずは耳を傾けることを大切にしています。自分の体験も活かして想像しつつ、一方で、自分が思ったことを押し付けるのではなく、その人たちの想いを汲み取ることが重要かなと思っています。特に、国連職員の場合、苦しい立場にある人々のために声をあげることが多くありますので、その際は、先入観ではなく、当事者の声を大切に伝えられるようにしています。
その上で、どのように声をあげていくのかというと、会議の流れでどこかエントリーポイントを見つけて、女性の精神的・人道的支援をすることが重要と訴えられるデータ・理論・論理などを自分の頭の中で描いた上で、発信します。会議がどんなふうに流れるのかは予想もつかないことが多く、ちぐはぐなことをいうと、緊急支援を主とする人道支援の中では受け入れてもらえないことが多いんです。
イエメンでもバングラデシュでも、人道支援系の仕事でまず浮き上がるニーズと言うのは、だいたいいつも食料・シェルター・医療なんですよね。女性の精神的なニーズ、例えば暴力・暴行を受けた後の心の傷といったものは目に見えないので、例えば食料のように提供することですぐにニーズを充足できるものでもないからと、優先されないことが多いんですよね。国連のミーティングでもなかなか取り上げてもらいにくい。ですから、食料・シェルターの課題を挙げている際に、何か精神的なニーズと関わり合うところがあるのではないかと模索して、自分でノート上でロジックを組み立てて、手を挙げるなどしています。このように、ミーティングへの参加の仕方に工夫したりしていますね。
他にも、わたしはずっとフィールドで働いてきましたので、国レベルで地に足をつけながら実体験をしてきたことが強みになってくれているのではないかと思います。

 

– フィジー・ラオス・イエメン・バングラデシュと、さまざまな国事務所で勤務されてきた成田さんですが、いろいろな文化的背景の人が集まるところでうまく周りを巻き込んでリーダーシップを取る上で、何か意識していることはありますか?

今年で国連で働いて16年目に入るのですが、どれだけたっても異文化の中でリーダーシップを取る難しさは消えませんし、消えなくてもいいのかなと思っています。どういうことかというと、結局自分とは全く違う体験をして育った人たちと仕事をするというのは、できるだけ努力をしてみても、そう簡単じゃないなとは思いますよね(笑)。だから、そういうものだと肩の力を抜いて仕事をするようにしています。
毎回新しい国に行くと、相手の考えていることは、必ずと言っていいほど自分の考えていることとは違うな、という気がします。会議でも、自分のチームのことはもうよく知っていて、この人はこういうことを言うんだろうな、と思っても、時にその逆を言ってくるとか、そんなことばかりなんですよね。ですので、あまり気を張らず、必ずしも自分に賛成してくれなくてもいいかな、と最近思うようになりました。それは多分、年の功もあると思います。やはり若い頃は自分が正しいと思ってほしいし、「自分がちゃんと仕事している」と20代30代では思うものなんですよね。「それを他人に伝えたい、わかってほしい、自分はあっているんだ」って思ったり。でも40歳を越したところで「わかってくれなくても大丈夫なんだ。また2〜3回言ってみよう」と思えるようになって。そうすると、自分も相手もリラックスできるんですよね。「自分がこう考えているから相手もこうなんだ、という先入観をやめよう」と思えるようになりました。
ひとつ例をあげますと、バングラデシュの文化というのは日本とちょっと違って、たとえ会議の場でも、褒める文化があるんですね。「注意する」などということがあまりなくて、多くが褒めモード。そんな中で、「これをしてくださいね」「こんなことに注意してくださいね」というのをどう伝えようかと悩んだ時期がありました。じゃあこれを「ぜひそういうことをすることにinvite します。あなたを招待します」という言い方に変えてみようと。まあちょっと変な英語ですけど、“I invite you to do something. ” というような言い方に変えたら、何となく反応が変わったんです。「ああ自分は招待されているんだ。期待されているんだ」ときっとみんな思ったんでしょうね。その言い方が効果的だとわかって、今はもう会議の中ではそれしか使っていない気がするのですが(笑)、そういったちょっとしたやり方の違いで随分と仕事のやり方も、リーダーシップの効果も違ってくるなと思います。

 

– 国連で働く中で、大変なことに直面したとき、どのように乗り越えているかをお聞かせいただけますか?

国連の仕事というのは、やりがいはもちろんあるんですが、必ずしも毎日感動しながらやっていく仕事でもないんですね。やはり苦難を感じながらやっている部分も正直あると思います。これは本当にパーソナルな意見なのですが、その中でどうやって乗り越えていくかと言うと、「いい友達はつくっておくべきだな」と思います。数名いい友達をつくっておくと、何か試練やチャレンジにぶつかったときに癒やされるし、助けてもらえるし、すごく励みになると思います。いい友達は、自分が落ち込んだ時に手助けをしてくれたり、一緒になって問題を解決してくれたりします。国連で働いていると、そういう人が必ずしも同じ国にいるわけではなく、イタリアにいたり、カザフスタンにいたり、日本にいたりするのですけどね。そういういい友達のネットワークとはずっといい関係で付き合っていくことができるので、若いころにそんな友達をつくっておくのは大切だと思います。
次に、これは歳を取るにつれてかと思うのですけれども、頑張りすぎないということ。すごく大きな問題に直面したとき、30代の頃はその問題について、週末もチクチクと考えていることが多かったんですね。でもそれは自分に大きなストレスを与えていて、プレッシャーが逆効果になることもありました。息抜きはすごく重要で、そういうことを頭から離してランニングに行くとか、メディテーション(瞑想)をするとか、息抜きの重要性をすごく感じています。特に辛いときは、なるべくそのことを週末には考えない。少し友達に話したり、日記に書いたりして、あとは頭から離す。それで客観的に見られるような精神状態になったときに、それに立ち向かい、「必ず何か答えはあるんだ」と自分に言うようにしています。
最後。これはすごく重要なことで、家族を大切にするということ。国連で仕事をする上では、自分の家族から離れて生活をすることも多くなりえます。その上で、自分の人生上のプライオリティは何かを考えておくことは大切です。私にとっては、家族、友達、そしてその後くらいが仕事なんですよね。だからそのプライオリティを崩さないことが大切です。家族や友達とのコミュニケーションを忘れない。そうしたことを大事に、人間関係を守っていった上で仕事をするということ。そのプライオリティを健全に守れていれば、仕事もうまくいくと思います。

 

– 先ほどお話しいただいた、苦難に直面したときの友だちの支えの大きさに関連して、成田さんが友情を築く際に大切にされていることを教えてください。

 コミュニケーションは必ず双方向性のものです。絶対に一方通行ではないということが重要だと思います。要するにテイクばかりではなく、ギブ・アンド・テイクですよね。利益があるかとかではなく、「お互いにコミュニケーションを大事にして、お互いに助け合えるのがいい」という価値観があるとすごくいいと思います。相手が自分の話を聞いてくれる存在なら、その人の話を聞ける余裕を自分にも作っておくというようなことがすごく大切かなと感じます。あとは楽しく笑えること。やっぱり笑いってすごく重要だと思うので、本当に心から笑って話せることも大切なんじゃないかな、と思います。

 

 

いかがでしたか?

成田さんが仕事をする上で大切にされていることのお話は、どんな職業にもあてはまることではないかと感じました。とても印象的で、勉強になるエピソードでした。

後編では、国連に入るまで・入ってからのキャリアについて、詳しくお話を伺います。

お楽しみに!

 


 

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