こんにちは、VoYJ事務局です。
今回は、2021年11月21日(日)の東京大学駒場祭にて国連人口基金(UNFPA)ケニア事務所の新井さつきさんをお招きして開催したトークセッションの内容を記事にしてお送りします。
日本政府のJPO制度(※)を通じてケニアに派遣されている新井さつきさんは、2020年からUNFPAケニア事務所でジェンダー専門官として勤務されています。
※JPO(ジュニアプロフェッショナルオフィサー)派遣制度
各国政府の費用負担を条件に国際機関が若手人材を受け入れる制度で、外務省は本制度を通じて、35歳以下の若手の日本人に対し、原則2年間国際機関で勤務経験を積む機会を提供している。
今回の第3弾では、仕事をする中でのメンタルコントロールや、新井さんご自身の将来の展望についてお伺いします。
これまでのセッション記事はこちら⇀第1弾 / 第2弾
それでは、セッションの模様をお楽しみください。
当日の動画アーカイブはこちら
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れい:私も踏み込んで質問させていただきたいです。いちユースとして、すべてのユースが積極的に情報収集して、世界の裏側のことを自分と関連付けて考えることができればよいと思います。情報を発信する立場に立っていらっしゃる新井さんご自身は、世界を閉じてしまったり、興味がないというふうにシャットアウトして情報収集をしない、またはニュースも見ない人に対しては、どんなアプローチの工夫をされていますか。
新井さん:そうですね。アプローチの仕方は、友達間でのレベルと、私がケニアでやっていることでは全然違うと思うのですが、友達間のレベルで言うと、ある程度情報がある中で、情報を閉ざして興味がないと言っている人に対して外から何か言っても、結局自分が変わろうとしない限り、何も変わらないと思います。こちらから「どういうことをやっているの?」と聞いたり、「もっと何かやったほうがいいよ」と言っても、本人には響かないことがあります。
日本の方々に対しては、さまざまな情報に触れる機会、このようなイベントもひとつのきっかけにはなると思います。私も国際協力の仕事を目指したのは、学生時代にイベントに参加していろいろな人達の話を聞いて、「こういうキャリアの築き方もあるんだ、こういう仕事もあるんだ」と気づいたことがきっかけです。学生時代に吸収した話は自分の心の中に残ります。まず自分が積極的に何かをしなければならないのですが、情報を得る努力は一番重要だと思います。
一方で、情報を閉ざしたいときは別に閉ざしてもよいと思います。他人がどうこうではなく、自分は自分です。自分を閉ざしてしまっても、その後で自分が変わろうと思えば変われます。いろんな人生の歩み方があって、近道もあれば遠回りもあると思うので、あの人はああだから、と気にする必要はなく、自分が興味のあることに飛び込んでいくのが重要だと思います。学生だから勉強もしなくてはいけないし、論文も書かなくてはいけないでしょうけれど、学生で時間があるうちにできることもあれば、学生だからこそお金ではなく経験を積むこともできます。いろいろな情報が溢れているなかで正しい情報をキャッチして、飛び込んでいく勇気を持ってもらいたいと思います。
れい:ありがとうございます。学生時代や幼少期の経験や考えがその人にずっと影響を与えるというお話があり、「私たちの世代が親になったときに次の世代に伝えていくにはどうしたらよいか」ということを考えるきっかけになりました。
サクラコ:「情報を閉ざしたいときには閉ざしてもよい」という言葉が印象に残っています。
以前、今までエネルギーを持って進んできたところでそれがぷつんと切れてしまって、「自分の内側を向きたい、自分の時間を持ちたい」と思ったり、「SNSやコミュニティに所属したりするのがしんどい」と思ってしまったことがあったのですが、そのときは遠回りをしてよかったと思っています。
新井さんは積極的に活動されていますが、「自分の内側に目を向ける時間や時期を持ったことがあるのか、現在も自分に向き合う時間を持っているのか」というところに興味を持ちました。もしよろしければ、ご経験をお話いただければと思います。
新井さん:もちろんです。こんな元気そうに今は話していますけれど(笑)、やはり山あり谷ありで、「自分なりに苦しいときもあったな」と思うことがあります。「国際開発協力という道を選んだことは正しかったのか」と考えてしまうときりがないんですけれど、「本当にこのキャリアで良かったのか」と思うことはよくあります。
国連では1年契約とか2年契約が一般的で、何十年という長い契約はないので、先がなかなか見えない仕事です。半年後、私は何をしてるんだろうと思うことが多々あります。ですからジェットコースターのように「もう来月は仕事ないかも」と思うこともあります。そういうときに、岸野さん(サクラコ)がおっしゃったように、FacebookとかInstagramとかから、いろいろな情報が流れてきて、「結婚しました」「○○に赴任しました」といった友達の輝かしい投稿を見てしまうと落ち込んだり、「自分は全然できないんだ」と感じたりすることもあります。でも落ち込むことってすごく大切です。落ちこんで自分は何もできないとか、自分に自信がなくなることもあります。でも、先ほど岸野さん(サクラコ)も「よかった」とおっしゃっていたんですけれど、それが人間だと思っています。私もそういう時期がありましたし、ハッピーが続く人はいないんです。ハッピーが続いているように見える人でも、SNSにわざわざ落ち込んでいると書く人なんていない訳ですから、別に気にしなくて良いと思っています。自分が閉ざしたいときは閉ざすべきですし、自分のペースで進んでいくことが必要だと思います。
サクラコ:ありがとうございます。すごく心が温かくなります。自分のペースで進んでいくことは大切で、本当におっしゃるとおりだと思います。お仕事のなかで大変なときは、自分でそのお仕事の内容自体でもショックな経験をしたり、いろいろあると思います。そういったときに周りの人だけでなく自分自身のメンタルヘルスのコントロールって大事だと思うんですけれど、新井さんはどのように対処されているんですか?
新井さん:私は仕事をずっとし続ける傾向があるんですけれど、休みをとるとか、シャットダウンして仕事を一切しないというのはすごく大切で、そういう時期があるからこそしっかり次のスタートが切れると思います。私は旅行が好きで、今はコロナ禍で海外にはなかなか行けないのですが、ケニア国内を訪れたりするのが私にとってはすごく重要です。あとは土日は何もしないことですね。でも実際はON・OFFの切り替えは私も苦手なのですが(笑)。実は昨日もあったのですが(笑)、たとえば上司やチームから土日に電話がかかってきても一切出ないとか、そういうのも良いと思います。ずっとONでいる必要はまったくないので、自分のストレスの解消法を見つけて実践していくというのは、長く仕事をしていく上で重要だと思います。20代のころはパワフルで、だからこそ頑張りすぎてしまうことがあります。100%の力しかなくても120%の力で働いてしまうということがあって、でも、その120%の力には限界があります。例えば、20代までは頑張れても、30歳で崩れる人も多いです。もちろん頑張ることも必要ですけれど、自分ができることをすること、無理をしすぎないことも重要だと思うので、そういったところも意識すると良いと思います。
サクラコ:ありがとうございます。本当に大切だと思って、生活の中でも活かしていこうと思います。
わかな:先ほどのお話のなかで、国連職員ってJPOもそうですけれど、契約期間が決まっていて、その次どうしようとか、不安な雇用である点も多いと思います。そこでの葛藤というのもよく国連職員の方から伺うのですけれど、その中で貫いていきたいライフワークや、「これをやりたいから、それに関わる仕事をやっていこう」といったひとつの軸のようなものはおありになるのかということと、これからも国際機関でのキャリアを続けていきたいのか、それとも勤務の中でこれをやりたいというのが出てきたのか、伺いたいです。
新井さん:おっしゃる通り、半年後、1年後が見えない世界ではあります。でも大切なのはそれを楽しむということだと思っています。短年の契約は、逆に言えば自分の行きたい国が選べる、仕事が選べるというポジティブなこともあると思うんです。仕事がどうなるかわからないという不安は50%くらいあるんですけれども、あとの50%は「自分がやりたいことをやればいいじゃないか、自分が行きたい国に行けばいいじゃないか」と思っています。契約期間が切れて半年くらい何もしないということは国連の中では多いので、半年何もしなくてもそこで自分をリチャージすれば良いと思いますし、そこで自分が次に何をしたいかというのを考えて進んでいけば良いと思います。
私の仕事の軸は、やはり「ジェンダー」です。
私自身JPOのときにUNFPAを選んだのも、Gender Based Violence(ジェンダーに基づく暴力)への対応に関わりたくて、UNFPAがそのリーディング・エージェンシーだったからです。UNFPAで働いてキャリアを築いていくというのはひとつの経験だと思いますが、それだけにとらわれないことが大切です。ジェンダーに関わることは、国連でなくてもNPOやプライベートセクターなどでも出来ます。組織にこだわるのではなくて、自分が何をしたいかに焦点を当てることが大切です。私の場合はジェンダーですが、「ジェンダーをやれる組織はどこなのか、自分の能力と経験は見合うのか」、それを踏まえてキャリアを積んでいくというのが重要です。組織にこだわりすぎてしまうと自分の世界を狭めてしまうことになります。自分のしてきた経験は絶対に無駄にならないので、その経験を活かして色々な組織でキャリアを繋いでいく。自分が何をしたいのかを考え、それをやれる手段や組織を探していき、あまりストレスにならないようにできれば良いと思っています。
わかな:ありがとうございます。今の時代、どこの組織に属するかよりも今何をしているのかを重視するキャリアの形成が自分の人生を豊かにするためにも重要なのだと思います。
れい:新井さんの個人的なお考えをお聞きします。新井さんのキャリア形成のモチベーションに繋がる、ご自身が目指す世界像や最終目標などを教えていただけると嬉しいです。
新井さん:私は今までジェンダーに基づく暴力や有害な慣習といった問題に携わってきました。しかし、「ジェンダー」といっても他にも様々な問題があり、さらにジェンダーはクロス・カッティング・イシュー(どの分野においても問題となるもの)でもあります。今後は、ジェンダーというテーマでさらに多様な問題に関わり、様々な分野で「ジェンダー」の視点を反映させるような活動に取り組んでいきたいと思っています。日本も含め、ジェンダーの課題は多くありますが、女性が積極的に声を発して活動できる社会の仕組み作りに関わっていきたいです。先ほども話しましたが(第1弾参照)先までキチキチ決めすぎても思い通りにならないことも多いので、10年以内のざっくりとした目標を目指しながら、その先のことは柔軟に対応していくつもりです。
さとこ:最後に、ユースへのメッセージをお願いいたします。
新井さん:こういった機会をUNiTeの皆さんにいただけて嬉しかったです。私個人の話を公の場でする機会というのは、なかなかありません。学生のうちに、若いからこそできるという特権を利用して積極的に活動していって欲しいということをお伝えしたいです。落ち込むことや遠回りすることも大切で、バランス良く両方の側面を受け入れ、自分のやりたいことを見つけて頑張って頂きたいと思います。
〜新井さん所属のUNFPAでは、クラウドファンディングを実施しています〜
UNFPA東京事務所は安全な出産、女性を助けるためのクラウドファンディングを主導しています。1000円の寄付で2つの出産キットが買えて、4人のお母さんが助かります。
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〜感想〜
さとこ:「オンとオフを切り替える」というお話が身に染みました。私自身もそうですし、UNiTeには他のところでもいろいろなことをしながら活動している人が多いので、消耗してしまわないように、というところに気をつけていきたいと思います。
ジェンダーのトピックで「男性も被害者になり得る」(詳細は動画を参照)というお話が出たところも、とても共感できました。ネット上などでは、フェミニズムに反対しているという方の声も多く見かけます。女性の権利を促進すると自分たちが何かしらの損をすると思っていらっしゃるのかもしれませんが、本質的な平等を目指せばそうはならないということを発信して、もっとよい世の中にしていきたいと思います。
わかな:UNiTeのメンバーも国際機関や国際協力に関心があると思いますが、新井さんのような女性が進路決定の経緯やキャリアパス、道の歩み方や日々の過ごし方、教訓を教えて頂き、とても参考になりました。
私自身も、情報収集をして、積極的な行動に移し、ビジョンとキャリアのあり方を考えていきたいです。
れい:UNFPAの方とお話するのは初めてですし、UNiTeに所属していても国連の関係の方とお話するときは緊張しますし、壁を感じることもあります。そんな中で新井さんが「積極的に飛び込んで行って良いですよ」とおっしゃってくださり、ユース目線でたくさんお話ししてくださいました。
こんな貴重な機会を与えてくださり、本当に感謝しています。
UNiTeとして、「興味がない、垣根を感じる」と思う方でも巻き込んでいけるように架橋となっていきたいと思います。
学生の間から始める、キャリア形成、キャリア継続のコツなどを教えていただいたので、それらを心に刻んでこれから頑張っていきたいと思います。
サクラコ:私は看護の勉強をしていて、大学院に進んで2年間助産師の勉強や母子保健の研究をしようとしています。ですので、リプロダクティブヘルス、女性の権利、妊娠出産、赤ちゃんの未来など、関心を持って聞かせていただきました。国外をフィールドにして、問題に関して現地の方をエンパワーメントする形で取り組んでいることがまず興味深かったです。異文化において、どの場面、どんな職種でもその人をその人として見て、現地の方の人生・ストーリーにフォーカスして、自分も寄り添うことを大切にしていきたいと思います。
ユース目線のパワフルだけど悩んでしまう、頑張りたいけど頑張れない時期についてもアドバイスをいただけて嬉しかったです。
自分のやりたいことに向かってしっかり頑張っていきたいと思います。
みずゆう:現地での活動、特に、企業とコラボして現地の方に生計の手段・ビジネススキルをお伝えしてエンパワーメントしたこと、宗教指導者や長老との関わりをお聞きしたことが印象に特に残っています。自分はたくさん論文やニュースを見たり、キャリアのことを考えていくうちに自分が「誰」を支援したいのか見失ってしまうことがあります。お話を聞いて、社会的・教育的に不利な子どもたちのために活動したいという自分の気持ちが確かめられました。
「結婚もしなくてもいいし、子どもも作ろうとしなくてもいい」「自分がどこで働きたいかではなく何をしたいかが大事」「自分が思ったことを積極的に追求する」などの新井さんの柔軟なお考えから、他者をカテゴライズしないことや自分の可能性を狭めないこと、自分の気持ちに従うということを学ばせて頂きました。
私もこれから心の声を聴きつつ、やりたいことに向けて頑張っていこうという前向きな気持ちになりました。
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2年生
東京大学 UNiTe VoYJ Youth UNHCR
アフリカ 国際法 禅に興味がある。
合唱 読書 書道 リラックマが好き。