UNICEFマラウィ事務所 子どもの保護担当官 中谷菜美さん 【後編】

マラウィ南部の洪水被害のアセスメントで住民から聞き取り調査を実施©UNICEF Malawi /2020/Nami Nakatani
インタビュー

UNICEFマラウィ事務所子どもの保護担当官・中谷菜美さんのインタビューを全2回に分けてお送りします。このインタビューはVoYJ「世界子どもウィーク」の特別企画として実施しました。前編では、子ども・ユース時代にはじまり、UNICEFで仕事をするまでのキャリアについて伺いました。後編の今回はマラウィ事務所でのお仕事、若者へのメッセージについてお話を伺いました。

 

きさの:

チャイルド・プロテクション・オフィサーとして働く原動力となっているものはなんですか?

 

2つあります。

まず1つは、「すべての子どもたちが子どもの権利を享受する」というUNICEFの理念に共感しているので、自分ができる事はすごく限られているのですが、私も微力ながらそこに貢献できているのかもしれないと感じることは日々のモチベーションとなっています。

もう1つは、仕事のカウンターパート(仕事上協力してくれるパートナー)から信頼してもらえたことや、自分の仕事が子どもたちの役に立てたことを実感することも、小さなことですがやりがいになっています。

 

きさの:

お仕事相手の方や現地の子どもたちと仕事をする上で、大切にされていることはありますか?

 

意識していることは、「部外者である自分に何ができるか」ということです。もちろん私もマラウィの子どもたちのために働いているのですが、マラウィの子どもの未来を一番に考え、長期的に関わることができるのは、マラウィの政府やマラウィ人のスタッフ・同僚であり、彼らが主役であるべきだと思っています。マラウィの政府や子どもに実際に関わる行政職員の方たちが子どもたちに対して良い支援ができるように、サポートすることが役割なのではないかと思っています。 

 

きさの:

お仕事をする中でぶつかった壁や葛藤はありますか?

 

すごく大きな壁にぶつかったことはあまりないのですが、やっぱりいろんな出身国の職員がいるので、仕事を進めるのが難しいこともあります。育ってきた環境が違うと仕事の仕方が人それぞれになるので、うまくチームが動いていくように、丁寧にフォローアップをしたり、コミュニケーションを大切にしたり、工夫をしながら仕事をしていきたいと思っています。

UNICEFマラウイ事務所は、マラウィの国際機関の中では大きい方で、130人ぐらいのスタッフがいて、そのうちチャイルド・プロテクションの部署では15人程度が働いています。 バックグラウンドも、法律や、社会福祉、臨床心理、国際関係など様々です。

 

かげしゅん:

日本赤十字社と、国際機関であるUNICEFで働くことの違いを教えて下さい。

 

まず違うのが一緒に働く相手だと思います。国際機関の場合、カウンターパートは政府なので、その国の政府がより良い政策を実行出来るようにサポートしていくことになりますが、日本赤十字社の場合は、例えばネパールの支援をする時にはネパール赤十字社がカウンターパートとなり、赤十字社同士で協力していくという違いがあると思います。

また日本赤十字社には、日本企業に多い終身雇用や人事異動のシステムがあり、いろんなことができるジェネラリストが求められるのですが、国際機関の場合は数年単位の契約で、専門性の高いスペシャリストが求められるという違いもありますね。

 

かげしゅん:

マラウィのとなりのタンザニアに訪問した際に、子どもへの体罰があると聞いたのですが、中谷さんのお仕事のチャイルド・プロテクションではどのように取り組まれているのですか?

 

子どもへの暴力には、いろんな要因があり、エコロジカルモデル(*1)を使って考えることが多いです。

例えば、母親から子どもへの虐待の例では、お母さん自身が様々な困難を抱えていることも多くあります。例えば、お母さんが昔暴力を受けた経験があったり、薬物中毒であったり、シングルマザーであったり、経済状況が苦しかったり。パートナーやサポートが得られる親族などとの関係性も重要になります。加えて、虐待が罰せられる法体制があるかや、社会的に体罰や暴力がどのように見られているかなど、社会状況も大切になるといったように、いろんなレイヤー(階層)があるんですね。

体罰の話に戻ると、実際にアフリカの学校現場の人の話を聞くと、大人数の教室で叩かないということを聞かない、子どもも叩かれるのに慣れてしまっているといった話も聞いたことがあります。ただ、それはやはり、体罰しか方法がないと先生や養育者が思ってしまっていたり、体罰があたりまえだと社会的に思われているといった状況があるからだと思います。体罰をなくしていくためには、いろいろな側面からのアプローチが必要だと思います。

私は大学院でポジティブ・ペアレンティング、つまり体罰を使わない子育ての研究をしていたのですが、アフリカ出身のお母さんたちが、今までは叩いたりする方法しかしつけの方法を知らなかったけれど、ポジティブ・ペアレンティングがより効果的で、子どもとの関係性も良くなったと話してくれたのが印象的でした。ただ、出身国では言うことを聞かない子どもを親が叩かない場合、周囲から「親がちゃんとしつけていないのではないか」と見られることもあるとの話も聞き、親や養育者に対するアプローチのみでは限界があり、社会の考え方から変えていく必要性を感じました。

UNICEFマラウィ事務所では、チャイルド・プロテクション・ワーカーと呼ばれるコミュニティレベルで働く人々をトレーニングする際に、体罰を用いない子育て方法を親に浸透させたり、政府と協力して、子育てのガイドラインを作ったりという活動をしています。その他にも経済的支援、子育て支援、もし虐待があった時に必要なサービスが受けられる仕組みなどへのサポートも重要です。

 

かな:

現地の社会規範が関わるというお話でしたが、社会規範とUNICEFの大切にしている子どもの権利が対立するときには、どのように対処されていますか?

 

例を挙げて説明していきます。

マラウィでは、2人に1人は18歳以下で結婚するという児童婚の状況がありますが、この状況に対してUNICEFができることの一つとして、エビデンスの作成が挙げられます。親が強制しているのか、自分の意志で結婚をしているのか。周りのプレッシャーからなのか。児童婚の背景にはどのような要因があるのかを、大学と協力して調べました。この調査によって、教育や仕事といったオプションがないために、子どもたちが家庭を築くことを早くから選択してしまっているケースが多いという結果が得られました。児童婚を頭ごなしに否定してやめさせようとしても、根本的な解決になりません。その選択の背景にある要因や事情を探り、その原因に対処していくというアプローチが重要なのではないかと思います。また、児童婚がなぜ危険なのかを知らないということも、親やコミュニティ、子どもたちが児童婚を選択してしまう要因の一つです。そのため、早くに結婚して子どもを産むと、お母さんの体に負担がかかったり、赤ちゃんの早産につながり死亡率が増えたりと、どうして児童婚が良くない影響を与える可能性があるのかという理由を伝えていくことも大事だと思います。 

あとは、他の国の事例になりますが、女性性器切除(FGM)については通過儀礼という背景があって続いていることがあるので、別の方法で通過儀礼のセレモニーを行うことで、FGMを減らすことができたという例もあります。

 

きさの:

活動を通じて、現地の状況が良くなったと感じる瞬間はありますか?

 

政府の仕組みや能力を強化していくことは、すぐに成果が見えるものではないので、自分の仕事で何かがすぐに変わったというのは、なかなか難しいです。

ですが、被益者の方に会って話をして「助かりました」といっていただいた時や、10年ぐらい働いている現地職員の話を聞いた時に変化を実感することはあります。昔はチャイルド・プロテクション・ワーカーが全員ボランティアだったのですが、今では半数が政府からお給料をもらえるようになり、コミュニティで働く前にトレーニングが行われるようになりました。また、赤ちゃんが生まれた時に保健センターで出生登録が受けられたり、未登録の子どもたちを一斉登録するような仕組みによって、低いと言われていた出生登録率が大幅に上がってきたり、HIV/AIDSの母子感染が2000年から2016年の間に、84%減少するなど、着実な変化が起きています。1年や2年では大きな成果は見えにくいですが、長いスパンで見ると少しずつ状況が良くなっていると感じられるので日々の仕事の一つ一つが、そういった変化の一端を担えているのではないかと感じます

 

かげしゅん:

今後はどのようなお仕事をしたいですか?

 

今後も、UNICEFのチャイルド・プロテクションの分野で働きたいと思っています。UNICEFには、方針を作ったり各地域のサポートをするニューヨーク本部と、各地域に地域事務所、そして各国に国事務所があるのですが、私はしばらくカントリー・オフィスで一つの国と向き合いながら仕事をし経験を積みたいなと思っています。日本にもチャイルド・プロテクションの課題はたくさんあるので、将来的にはどこかのタイミングで日本に帰って日本の課題にも向き合い、自分も何か貢献できるようになりたいと思っています。 

 

かげしゅん:

最後に読者のユースにメッセージをお願いします。

 

もしみなさんに何かやりたいことがあったら、「やりたいことを周りの人にぜひ話して欲しい」と思っています。私は昔から国際協力をやりたいという気持ちを人に話すようにしていました。国連はとても遠い存在だったし、本当に行けるのかと不安になる気持ちもあったのですが、周囲に伝えているうちに、参考になるプログラムやイベントの情報を教えてもらったり、先輩を紹介してもらったり、キャリアの相談にのってもらったりと、多くの人に応援してもらえたお陰で今があると思っています。

 

加えて、国際機関に行きたいと思っている人には、ぜひ長期スケジュールを立てて欲しいと思います。みなさんの年齢では国連で仕事をするまで遠い道のりに感じるかもしれないですが、実は分解すると、国連に勤めるために必要なスキルや経験は、職務経験、大学院修士号、英語、第二外国語、海外経験などに分割されるんですよね。JPOプログラムを通じて国際機関で働く人の平均年齢は32歳ぐらいで、皆さんには今から10年以上あるじゃないですか。それまでの間で知識やスキルを身につけていけばいいので、長期スケジュールで一つ一つ積み上げていくイメージを持つといいのではないかと思います

国連には、子どもだけではなくいろんな分野の仕事があります。例えば人事や会計を専門にしている人もいますし、いろんな分野の人が専門性を持って集まっている組織なので、何を勉強していてもおそらくつながると思うんですね。広い視野を持って、長期プランを持って、目指していただくといいのではないかと思います。

 

今ユースのみなさんは、新型コロナウイルス感染症の流行で大変な経験をされていると思います。

学校にいけなかったり、海外旅行にいけなかったり、思うようにいかなくて大変だと思うのですが、長い目で見たら今しかできないこともたくさんあると思います。今はオンラインコンテンツも充実していますよね。大変ですが、無理せず 、でもあまり悲観せず、今できることをやっていただくといいかなと思います。

 

一同:

今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

 

感想:

きさの:この度は貴重なお話をありがとうございました!私は今回初めて現地で働いている職員の方の話を聴いて、多くの刺激を受けました。その中でも特に、「長いスパンで見ると状況は改善している」という部分が、現地で活動する方にしか分からない生の声なのだと心に残りました。自分が何をしたいのか、必要とされていることは何なのか、まだ分からないことばかりですが、いつの日にか私もその一端を担えるよう、精進していきたいと思います。

 

かげしゅん:素敵なお話をありがとうございました!自分自身、進路で少なからず悩んでいる時期だったのですが、お仕事に対して強い誇りを持っている中谷さんのお話を聞いて、国際協力への憧れが改めて強くなりました。

特に印象的だったのが、最後のユースへのメッセージです。国連での仕事に辿り着くのは本当に遠い道のりに感じていて、このままでいいのかと途方に暮れることもあるのですが、「まだ10年ある」と思えたらすっと肩の荷が降りたように感じました。焦らず、少しづつでいいので、長期スケジュールを立てて積み重ねていけたらいいのだと思えました。とにかく諦めずに、憧れを胸に頑張っていきたいです。

 

(*1)エコロジカルモデル:ある事柄を、「個人のレベル(Individual)」「対人間のレベル(Interpersonal)」「組織のレベル(Organizational)」「社会文化のレベル(Sociocultural)」の4つのレイヤー(階層)に分類し、各レイヤーで直面する課題(もしくは障壁)とその課題をクリアするためのサポートについて視覚的にわかりやすくまとめるモデルのこと。

 


 

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