表現すること

ボイス
14+

『若者の皆さんに質問です。
   あなたは自分の自由な思いを発信する機会がありますか。逆に、自分と同年代の若者の飾らない思いを受け取る機会がありますか。』

 

この度、ボイス・オブ・ユース JAPAN事務局3代目編集長になりました影山舜と言います。

これは、このウェブプラットホームの説明『VoYJとは』からの引用です。VoYJ事務局は、「声を上げにくい人、勇気が出ない人の背中を後押ししたい」と思って、このウェブサイトを運営しています。

 

けれど、自由な思いを発信すること、自分自身の飾らない思いを表現して世に出すことは、非常に難しいと感じます。

そう。自分自身を表現することは、とても難しいです。

自分自身を表現したときに、それが否定されたら深く傷ついてしまうから。あとで言葉を撤回したいと思った時に、自分の本心だったら誤魔化すことができないから。その場に応じて、キャラクターを変えて対応することができないから。

 

私はいつからか、思っていることをそのまま口にするのが怖くなりました。誰かの言葉に頼るようになっていました。本心を隠して、状況に応じた口当たりの良い言葉を選ぶようになっていました。いろいろなキャラクターを演じ分けることが処世術だと思うようになっていました。

その結果、自分の本心が何なのかがわからなくなってしまいました。友達はたくさんできたけれど、自分の気持ちをきちんと話せる友達は多くない。本当はそうではないのに、演じていたキャラクターを通して自分を判断されてしまう。いつも自分ではない誰かになっている気がして、とてもつらかった。

皆さんの中にも、私と同じ思いを抱いている方(いた方)は少なくないのではないでしょうか。

少し話を変えましょう。

「自分自身を表現している人」と言われて真っ先に思い浮かぶのが、作家や画家、歌手などでしょう。彼らは文章や絵画、歌を通して自分自身を表現します。想像上の物語だとしても、風景画や人物画だとしても、自分が作曲した歌じゃなかったとしても、彼らはそこにオリジナリティを付け加えます。そしてオリジナリティは、自分自身を表現することと同じだと、私は思うのです。

 

例えば、私は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』が好きなのですが、そこに書かれている坂本龍馬の人生には、司馬遼太郎の解釈が色濃く現れています。彼が龍馬のことを大好きだということはすぐにわかるし、文章の中には彼が龍馬という人物を借りて読者に伝えていることもたくさんあると感じました。

僕の大好きな言葉です。

人間は何のために生きちょるか知っちょるか。事をなすためじゃ。ただし、事をなすにあたっては、人の真似をしちゃいかん。

この文章には、坂本龍馬という人物を見つめる司馬遼太郎が表現されているように感じました。龍馬が一言一句この言葉を記したわけではないだろうから、彼の人生に対する司馬遼太郎の解釈なのだと思います。司馬遼太郎と坂本龍馬の二人に、人生の目的と自分の道をゆく大切さを教わった気がしました。

 

歌手はもっとわかりやすいと思います。歌詞には作詞者の思いが必ず表現されているし、歌い方にはその人なりの気持ちや人となりが、なんとなく表れるものです。楽曲のカバーを聞いていると、元の歌手の歌い方とはどこか異なって、どちらもとても素敵だなと感じます。真っ直ぐ情熱的に歌い上げる人、情熱的な中にどこか悲しさを滲ませる人、情熱的な中に優しさが垣間見える人。(“Queen cover“なんて調べてみるととっても面白いです) 彼らは音楽を通して自分自身を表現します。

 

彼ら表現者がずっと羨ましかった。自分自身を理解することができて、認めることができて、表現することができて、ありのままの自分を世間に受け入れてもらえて、なんて彼らは幸せなのだろう。なんて恵まれているのだろうと、思っていました。特別な彼らは、特別な才能をもってして、自分自身を素敵に表現している。私は特別ではないから、こんなにも迷ってしまうのだろうと、思っていました。

 

でも、本当にそうなのでしょうか。

 

COVID-19の影響で、当然ながら私もおうち時間が長くなり、自由な時間が増えました。今まで時間をかけることができなかった読書や映画鑑賞などに時間を割くことができています。腰を据えて表現者の作品を理解しようと努めてみると、表現者の才能や能力の素晴らしさを感じるのはもちろんですが、彼らはなんて正直なのだろうと思うのです。自分自身の声に対して、とにかく真摯に耳を傾けていることに感嘆するし、不思議なくらいに自身の経験を赤裸々に語ります。自分自身の好きなところも、コンプレックスも、時に自分を傷つけながら表現します。だからこそ、彼らの声は私たちの胸を打つのだろうと思いました。

 

もしかしたら、彼らは表現方法に関する能力や技術が素晴らしいだけではなくて、自分自身に関して異常なほどに正直であるという点でも「特別」なのかもしれません。そしておそらく、彼らは自分自身に正直でいるために少なからず悩んでいるのだろうと思うのです。

例えばQueenを題材にした映画 “Bohemian Rhapsody” を観てみましょう。Freddie Mercuryは自身のアイデンティティに少なからず悩んでいて、苦しんでいたようです。舞台上では華やかにスポットライトを浴びてあれほどに輝いている彼も、自分自身という存在について正直であろうとするが故に、苦しんでいたのではないかと思うのです。彼の歌を聞いてなぜかいつも泣きそうになるのは、華やかさの中に悲しみが垣間見えるからなのかもしれません。

例えば朝井リョウの小説『何者』を読んでみましょう。主人公の拓人は、私たちが普段見ないようにしている嫌な自分を浮き彫りにさせます。周りの人を観察し、客観視することで理解した気になって、自分自身が鋭い観察眼を持った特別な人だと思っている拓人は、周囲の人たちを見下して馬鹿にすることで自分を保っています。拓人の人物像はおそらく朝井リョウそのものなのだと思うし、彼はインタビューで「本当に、自分が一番知られたくない感情をすべて書きました。だけど、ここを書いているとき、作家になってほんとうによかったと思えたんです。」と語っています。1)

けれど、きっと自分自身を表現することは、彼ら表現者だけがするべき特別なことではないのだろうと、最近になって思うようになりました。

月並みな言い方ですが、大学受験までの勉強は答えがあるので、言われたことを覚えて理解すれば評価されます。自分独自の解釈や表現というのは必要ありませんし、場合によっては疑わずに素直に受け止めた方が評価されることだってあります。しかし、大学に入ってからの研究だったり、今後の進路を決める選択だったり、就活での自己アピールだったり、大学生になってすることの多くは明確な答えをもたないことになります。社会に出たら、もっと不確実で複雑で、明確な答えのない事象ばかりなのかもしれません。そんな時に拠り所にすべきなのはきっと、他人や社会の意見などではなくて、自分自身の意見であり、自分自身がどうしたいか、だと私は思うのです。言い換えると、自分自身を表現することが求められているとも言えます。

 

自分自身を表現することは決して楽なことではありません。そもそもどうしたいのかわからないなんて人もいるかもしれません。けれど、痛みを伴いながらも自分自身を表現しようと努めた結果、はじめて「価値」のあることができるのだと、私は思います。芸術だけでなく、モノづくりも、研究も、コミュニケーションも、サービスも、自分なりに工夫して、自分自身を表現してはじめて、評価されるし価値を届けられるようになるのだと思います。

私たち若者は、特に大学生は、人の後を追うだけではいけないところまで来てしまった。つらくてもかっこ悪くても、自分自身を表現しなくてはいけない時期に差し掛かっているのだと、私は思うのです。自分の本心がわからないから。自分に自信が持てないから。みんなと同じ道を行けば安心できるから。言われたことをきっちりやっていれば大きな問題が起きないから。そう言って自分自身から目を背けていても、何も始まらない。自分自身を表現することでしか、自分の人生を進んでいくことはできないのだろうと思うのです。

 

なるべく自分に正直に、生きていきたいと思います。

自分自身を表現することから逃げずに向き合って、自分の足で進んでいきたいと思います。自分ではない誰かではなくて、いつか自分自身でいることを認められる自分になれたらと思います。この記事は自分の考えたことを、なるべく正直に書こうと努めました。自分自身を表現するための第一歩としたいです。

 

私たちVoYJ事務局は、「声を上げにくい人、勇気がでない人の背中を後押ししたい」と思って、このウェブサイトを運営しています。既にローンチから1年と9ヶ月が経過し、200を超える記事を掲載してきました。一つ一つの記事にはライターの皆さんの声が込められています。自分自身を表現し、世の中に発信するという難題に、真摯に向き合っている方々がたくさんいます。そんな皆さんの言葉に刺激を受けながら、そんな風に自分も自分自身を表現したいと思いながら、校閲やコメントをさせていただいています。

この目標を掲げて活動することの重さを感じるとともに、ライターの方々が自分自身を表現する手助けをしたいと心から思っていますし、声を届けてくださったライターの方々に感謝をしつつ運営していきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。

 

1) https://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/333061/interview.html 

<参考>

朝井リョウ『何者』(2013)新潮社

司馬遼太郎『竜馬がゆく 全8巻』(1974)文春文庫


 

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