一通のメールがつないだ奇跡 〜マイ・フェイバリット・ピアニスト〜 【Part 2】

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5年に一度の大イベント。こう聞いて皆さんは何を思い浮かべますか?

私にとってそれは紛れもなく、フレデリック・ショパン国際ピアノコンクール(以下ショパンコンクール)です。

ショパンコンクールは、1927年の創設以来、第二次世界大戦の時期に中断はあったものの、5年に一度、ワルシャワの秋を彩り続けています。数ある国際コンクールの中でも最高峰に位置づけられ、マルタ・アルゲリッチやラファウ・ブレハッチなど、多くの世界的なピアニストを次々に輩出してきました。

私の小さい頃からの夢は、いつかポーランドを訪れて、生のショパンコンクールを聴くことなのですが…。ありがたいことに最近は、コンクールの様子がリアルタイムで中継され、日本にいながら出場者の演奏を楽しむことができるようになりました。そこで今日は、私が2015年のショパンコンクールのライブ配信を聴いたことから始まった、素敵な出会いについて書いてみたいと思います。

2015年10月、17回目を迎えたショパンコンクールにはビデオ審査と予備予選を勝ち抜いた78名のピアニストが集い、約2週間にわたる熱戦を繰り広げました。三度の予選を経て、本選への出場権を得たのは10人のピアニストたち。本選で彼らは、ワルシャワフィルハーモニー管弦楽団と、ショパンのピアノ協奏曲を演奏します。

私は、勉強の合間を縫って、一次予選から録画を見ては、個性豊かな演奏の数々に心躍らす日々を過ごしていたのですが、本選最終日だけは特別。絶対にライブ配信を見ようと心に決めていました。ついにクライマックスを迎えるコンクールの雰囲気を、リアルタイムで味わいたかったから。そして何より、予選の演奏で最も強く心を惹きつけられたカナダのピアニスト、シャルル・リシャール=アムランのピアノ協奏曲を一刻も早く聴きたかったから。

10月20日、本選最終日の演奏が始まるのは日本時間の真夜中です。夜更かしをすることにちょっぴりわくわくしながら、ポーランドにいる人々と特別な時間を共有できる幸福感に浸りながら、私はパソコンに向かっていました。

そしていよいよ始まったシャルル・リシャール=アムランの演奏。その素晴らしさをどう言葉で表現すれば良いのでしょう。画面越しにも伝わる包容力にあふれる音色、オーケストラとのハーモニーを大切にする姿勢に、どんどん引き込まれていきました。

興奮冷めやらず、ほとんど眠れぬまま迎えた朝、表彰式の中継で、私は彼が第2位入賞を果たしたことを知ったのです。

この感動とお祝いのメッセージをなんとかして本人に伝えたい。

そんな思いでたどり着いた彼のホームページでは、メールアドレスが公開されていました。今となっては、どうしてこんなに思い切ったことができたのか不思議なくらいですが、私は勇気を出して、彼に一通のメールを送りました。つたない英語で、でも精一杯の気持ちを込めて。

すると、なんということでしょう。その日のうちに、返信が届いたのです。入賞者となり、とてつもなく忙しいはずなのに、見知らぬ中学生が書いたメッセージに答えてくださった彼の優しさに、胸が熱くなりました。

それから約3ヶ月後、日本でショパンコンクールの入賞者演奏会ツアーが行われ、ついにコンサートホールで彼の演奏を聴くことができました。それだけではありません。終演後に彼との対面が実現したのです。

その時以来、来日の度に、彼は私をコンサートに招待してくださるようになりました。そして、時々交換するメールには、「君がプレゼントしてくれたhandkerchiefs(日本手ぬぐい)をいつも使っているよ」などという温かいメッセージも。

一通のメールをきっかけとして身近になったピアニスト、シャルル・リシャール=アムランとのつながりは今も、私がピアノを弾き続け、英語やフランス語の勉強に励むモチベーションになっています。

さて、今年は新型コロナウイルスの影響を受け、コンサートホールで音楽を楽しむことだけでなく、演奏家の国際的な活動も大きく制限されることになってしまいました。2020年のショパンコンクールも、1年延期されることが決まっています。

しかし、こんな状況だからこそ私は今、音楽の持つ力、音楽を通した人と人との心温まる交流に思いをはせる日々を過ごしています。皆さんももしよかったら、シャルル・リシャール=アムランの演奏を聴いてみてくださいね。

シャルル・リシャール=アムラン ショパンコンクール本選での演奏はこちら↓

https://m.youtube.com/watch?v=rawF-OsPE70


 

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