ふゆおじいさんは、田舎の小さな家に住むお百姓さんです。裏の畑はとてもよく土が肥えていて、毎年立派な大根がなります。ふゆおじいさんは取れた大根で漬物を作って売り、暮らしの足しにしています。本当はもっといい暮らしがしたいのですが、大根を売って稼げるお金はたかが知れています。
「ああ、大根の代わりに、土からお宝が、たとえばダイヤモンドなんかが見つかれば良いのになあ。」
ふゆおじいさんはいつもこう思っていました。
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ある日のお昼過ぎ、ふゆおじいさんはいつものように畑にやってきました。今年は豊作です。土の栄養を吸い取った大根たちは緑色の葉をもりもりと土から生やし、地中奥深くまで根を伸ばしています。
「これはこれは、とても美味しい漬物になりそう。それでは、収穫することにしよう。」
ふゆおじいさんは大根の葉っぱに手をかけ、思い切りひっぱりました。
「どっこらしょ!」
ところが、しっかり根をはった大根はびくともしません。
「困ったな。もう一度。」
ふゆおじいさんはさらに力を込めてひっぱりました。
「えいや!」
すっぽーん!!
大根は、抜けました。しかし……。
抜いたときの反動で、ふゆおじいさんの体は空へふきとんでしまいました。大根を両手に持ったままで。
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どっすん。
「いてててて……。」
ふゆおじいさんは、宇宙のどこかの星に着地したようです。派手にしりもちをついたのですが、地面がおそろしくかたく、おしりの骨が割れるのではないかと思ってしまいました。立ち上がるために地べたに手をつくと、何やら鋭くとがったものがチクリと刺さりました。
「恐ろしい土じゃな。ここはいったいどこであろうか?」
手をよく見ると、ついているのはキラキラ輝く破片でした。あわてて見渡すと、なんとあたり一面、ダイヤモンドがごろごろ転がっているではありませんか。ふゆおじいさんが到着したのは、土の代わりにダイヤモンドが地表を覆う、ダイヤモンド星だったのです。
あまりのことに、しばらくの間ぼうぜんとして動けなかったふゆおじいさんですが、ふと気がついてダイヤモンドを拾い始めました。こんな、大金持ちになる機会をみすみす逃すわけにはいきません。
そこへ。
「おや? いったい何をしているのです?」
とつぜん声をかけられました。通りかかったダイヤモンド星人が、不思議そうにふゆおじいさんを見つめていたのです。
きまりが悪かったので、ふゆおじいさんは頭をかきかき答えました。
「いえ、すみません。高価なダイヤモンドがたくさん転がっているので、欲に目がくらんでしまって……。」
ダイヤモンド星人は、最後まで聞いていませんでした。ふゆおじいさんが手にもつ大根に、目を奪われていたからです。ぽかんと口を開けて大根を見つめていたダイヤモンド星人は、おずおずと尋ねました。
「もしやあなたがお持ちなのは大根では?」
ふゆおじいさんは、相手が急にかしこまったのでとまどいながら答えました。
「はい、漬物にでもしようかと、抜いたところですが。」
「大根の漬物ですって? なんて高価なものを。」
ダイヤモンド星人はごくりと息を、いえ、つばをのみ込みました。
「あの、もしお望みなら、一本差し上げましょうか?」
たまらなくなったふゆおじいさんは、不思議に思いながらも大根をゆずってあげることにしました。
ダイヤモンド星人のひとみが、パッと輝きます。
「本当にいいのですか? ありがとうございます!」
そこで、ふゆおじいさんは、ためらいながらもお願いしてみることにしました。
「代わりに、ここのダイヤモンドを持って帰ってもよろしいですかね?」
ダイヤモンド星人は大きくうなずきました。
「もちろんです。ここは私の家の庭ですが、どうぞお好きなだけ持って帰ってください。しかし変わった方ですね。こんなものが欲しいなんて。なんせ、ダイヤモンドの土は肥えていないので、作物がろくに育たなくて。野菜が高くて困ってしまいますよ。あれまあ、貴重な大根にダイヤモンドがついてしまった。」
ダイヤモンド星人は、風で大根についてしまったダイヤモンドを手ではらい落としました。
「それではおいとまさせていただきます。ありがとうございました、おいしくいただきますね。」
にこにこして去っていくダイヤモンド星人を見送り、ふゆおじいさんは再びダイヤモンドを拾い始めました。
ポケットの中はすぐにダイヤモンドでいっぱいになりました。もう一粒も入りません。
「たくさんとった。これで終わりにしよう。」
ふゆおじいさんは満足そうに立ち上がりました。そして……。あらら、つるつるのダイヤモンドに足を滑らせてしまいました。勢いは止まらず、ダイヤモンド星から真っ逆さまに落っこちていきます。
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気がついたとき、ふゆおじいさんは裏の畑の真ん中に立っていました。ダイヤモンド星での出来事が夢ではなかった証拠に、畑の中には大根を抜いたあとの穴がぽっかりとあいており、ポケットもダイヤモンドで膨らんでいました。
しかし、畑にはよく肥えているけれど価値の低い土と、美味しいけれど安い大根がたくさんありました。もしここにあのダイヤモンド星人がやってきたら、くつの裏についているダイヤモンドを振り落としながら、必死で大根と土を集めるに違いありません。
「はて、物の価値とはいったいなんなのじゃろうか。」
ふゆおじいさんはダイヤモンドと大根を交互に見つめてつぶやきました。
VoYJ運営部員、東京大学UNiTeメンバー。小説を書くのが好きで、将来の目標は小説の力で平和な世界を作ること。「作者は読者が納得したのであれば、どのような解釈であれそれでよしとしなければならないのです」という祖父の言葉を座右の銘に、日々修行しています。広島県出身で、地元の自然豊かな風景が自慢。