7月16日、UNICEFインドネシア事務所から一時帰国中の岩田千鶴さんにお話を伺いました。
岩田さんは、インドネシア事務所で教育セクションの青少年チームで、青少年の社会参画を推進するお仕事をされています。
以下、岩田さんよりお伺いしたお話をまとめます。
★インドネシアの基本情報★
まず岩田さんがお仕事をされているインドネシアの基本情報についてです。
インドネシアは、東南アジアに位置し、17500以上の島で構成される国家です。東端から西端までの距離はアメリカ大陸と同じくらいで、東部と西部では、2時間の時差があります。
人口は約2億7000万人、青少年(adolescent)と呼ばれる10歳から19歳の人口は約4600万人と規模の大きな国です。
★インドネシア国内の青少年の状況★
岩田さんのお話によると、子どもたちの小学校の在籍率は上がっていますが、中高への進学や学習の定着率には課題があるようです。31%がPISA1)の定める最低限の学力ラインに到達していない、23%は就学・就業・職業訓練をしていないようです。中学・高等学校を卒業できるのは56%という状況です。
また、インドネシア統計庁 社会経済調査(SUSENAS)によると、15-19歳の青少年のうち67%がインターネットにアクセスすることが出来るとのことです。インドネシア国内の人口の約半分の人々が暮らすジャワ島では比較的インターネットが普及していますが、離島や山奥ではあまり環境が整っていないようです。
★青少年の社会参画(Participation)★
ユース特有の問題はユースでなければわかりません。ユースが意見を社会に発信することによって、見落とされていた問題が認識され、社会をポジティブな方向にもっていくことができます。そして、発信することを通してユース自身がスキルを向上していくことにもつながります。
しかし、発信するだけではなくユースの声をきちんと受け入れる大人の姿勢が大切になります。
©UNICEF Indonesia
インドネシア、そして特に田舎の方では年功序列の傾向が強く、ユースが大人の前で意見を言うのが難しいことがあるようです。
上のグラフのように、参加(Participation)には、全くユースの参加のないNo Participation、意見を相談する程度のConsultative Participation、ユースと大人が協力し合うCollaborative Participation、そして最終的にユースが主導となって最後まで計画に関わるYouth-led Participationという4段階があります。
これが適切に機能するためには、大人が若者の声を聴く場を設け、政策に盛り込んでいかなければなりません。
★Participationを促す活動の事例★
事例1. U-Reportの活用
U-Reportは、UNICEFが世界62か国で運営する、若者を対象としたデジタルコミュニケーションプラットフォームです。現在世界中に約840万人のU-Reporterがいます。
インドネシアにおいては、Facebook MessengerやWhatsAppといったアプリケーションを介してユースに関連のある問題について意見を聞き、ユースの声を政策やプログラムに生かします。
政策反映としては、南スラウェシ島のある町では、数年前より現地政府と連携し、政策策定の際にU-Reportを活用してユースの声を集めて反映する活動をしています。
またプログラムへの活用事例としては、中部ジャワのある地域におけるユニセフのいじめ対策プログラムにて、プログラム参加者であるユースたちによるプログラムへのフィードバックツールとしてU-Reportが活用されています。このU-Reporterにはインドネシアで10万人以上が参加しており、そのうち51%が女の子です。
©UNICEF Indonesia
(U-Reportに関する和文記事として、他国事例の記事ではありますがご参考までにこちらもご覧ください。https://www.unicef.or.jp/news/2014/0166.html)
ユースの声を直接集めることのできるU-Reportですが、ユースが意見を発信するには携帯電話(スマートフォン)の保持、最低でもインターネットへのアクセスがあることが前提となるため、意見提出に参加できる対象者が限られてしまっていることが課題となっています。
携帯電話の保持やインターネットへのアクセスに制限されずにより多くのユースの声を集めるために、ユニセフは各地域に赴き、対面でプログラムを実施するなど策を練っていますが、学校やユースセンターを話し合いの場とする際 には、地理的条件、また経済的な事情で学校に通えていないなどといった様々な理由でそこに来ることのできないユースのことも考慮に入れなければなりません。
事例2. Adolescent Circle
インドネシア東部のティモール島では、UNICEFの支援するアクティビティ(Adolescent Circle)を通して、子供たちが自分たちの村にどんな問題があり、それをどう変えていきたいかについて話合いました。この地域では、乾季に川が枯れ、子どもたちが毎日2時間近くかけて水汲みに行かなければならず、学校に遅刻してしまうこともありました。この問題を解決するために、子供たちが集まって話し合い、他の村の事例を参照する中で井戸を作るのが良いのではないかという意見で一致しました。
話し合いの様子©UNICEF Indonesia
自分の親や村の大人たちを説得し、村長さんに提案して、最終的には村の予算をつかって井戸を作ることができました。こうして、彼ら彼女らは願い通り学校の勉強に集中することができるようになりました。
提案するユース©UNICEF Indonesia
ユースの意見を取り入れることで、大人が気がついていなかった問題を発見・解決し、これから社会を担っていくユースに還元することができた事例の一つです。ユースの自信になることはもちろん、コミュニティ全体にも利益をもたらします。
このアクティビティでファシリテーターを担当したフェリーナさんは、現在他の地域でのファシリテーターの育成にも携わっています。
★お話を聞いて★
思春期は、脳や身体に急激な発達が起きる時期であり、大人になるために非常に重要な時期であると同時に、大人になるために非常に重要な時期を過ごしているということ。
そんな期間を生きるユースの声は社会を変えるために大切だということ。
ユースの声を政策に取り入れていくためには声の発信はもちろん、受け入れる大人の素地が大切であるということ。
オンラインでのコミュニケーションの限界と挑戦。
VoYJが直面している状況とインドネシア事務所のユースセクションには近いところがあり、課題も共通したものが多いように思われました。
ユースの声を届けるParticipationをどう促進していくか、VoYJを運営する私たちも、1人のユースとして考えて行きたいと思います。
(岸野)
背景は違えど、共に積極的に自らの声を発信しにくい環境に存在する日本とインドネシアのユース。
環境や他の様々な事情からオフラインでのイベントへの参加が困難なユース。
インドネシア事務所のユースセクションに関するお話は我々のVoYJが直面し、解決していかなければならない課題に通ずる部分があり、学びを深めることができました。ユースの思いを届け、つなぐプラットフォーム構築を目指すものとして、また思いを発信し社会をポジティブな方向にもっていくことを目指すユースの一員として、多くを考える機会になりました。
(青山)
これを読んでいるユースの皆さんもインドネシアのユースの皆さんと同じところも違うところもあると思います。この記事を読んで、違う地域に住む同世代に思いを馳せてもらえていたら嬉しいです。
岩田さん、お忙しい中、貴重な機会をありがとうございました。
1)PISA(Programme for International Student Assessment):国際的な学習到達度調査。義務教育修了段階(15歳)において、これまでに身に付けてきた知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測る。
VoYJ運営部員、東京大学UNiTeメンバー。小説を書くのが好きで、将来の目標は小説の力で平和な世界を作ること。「作者は読者が納得したのであれば、どのような解釈であれそれでよしとしなければならないのです」という祖父の言葉を座右の銘に、日々修行しています。広島県出身で、地元の自然豊かな風景が自慢。