文化を歩く

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皆さんの周りに、外国から来た人はどれくらいいるでしょうか。

 

2018年の時点で日本には260万人以上の在留外国人がいますが 1)、来日するにあたっての目的は人によって異なります。

 

仕事や学業のために日本に移り住んで来た人。

ワーキングホリデーとして、日本に一定期間のみ滞在している人。

日本人や日本に在留する権利を持つ人と結婚し、生活をおくる人。

 

このように理由は様々ですが、来日者の多くが自分の目的のために多大な苦労を乗り越え、日本という異国の地での暮らしを営んでいます。私自身、海外で3年間生活していたことがあり、現在は日本の大学で多くの留学生と関わる機会があります。その経験から、海外生活に関する苦労を感じたり耳にしたりすることは今まで多くありました。特に外国から日本に移ってきた人たちが立ち向かわなければいけない問題は、言語やマナーの違いはもちろん、食文化や気候の違いなど私の想像を超えるものばかりで、到底ここに綴りきれるものではありません。

 

そこで今回は特に、「食」に注目してみたいと思います。

 

「食」というと、様々な文化の中で特に多彩なイメージがあるのではないでしょうか。食材ひとつをとっても、国や信仰する宗教の間で食べ方が異なるもの、さらには食べることが禁じられているものも珍しくありません。

例えば、鶏肉。ベジタリアンにとっては、もちろん食べる対象にはなりません。またイスラム文化では、ある定められた方法で得られた肉以外は食してはいけないというきまりがあります。コンビニで手に取ったスープひとつにおいても、原料に鶏肉が含まれるのか、また含まれるとしたらその鶏肉がハラールであるかによって食べられるかが決まります。

 

数年前、私は初めてイスラム教を信仰するムスリムの女性と友達になり、知り合ってからしばらくしてその苦労を知りました。ムスリムの人口が母国と比べて著しく少ない日本で、外食はもちろん、スーパーで調味料を手に入れることも簡単ではありません。原材料の中に含まれる「乳化剤」が植物性由来か動物性由来か、ということで左右されるその友人の食生活。日々の授業や試験に追われる学生にとって、相当なストレスであることが想像できるでしょう。

 

ベジタリアンやビーガンにとっても、日本での食生活は頭を悩ませる種となっています。だしをはじめとする調味料にも動物性の食材が含まれることが一般的である日本では、一見 食べられそうに見えても実はそうでないものが多いのです。日本にやって来てその苦労を味わい、ベジタリアンを辞めざるを得なくなった人も少なくないようです。

 

年々在留外国人の人口は増加しており、さらに東京オリンピックが近づくにつれて外国からの観光客も増えるでしょう。そんな中で、先に述べたような苦労を少しでも和らげるために何ができるでしょうか。

直接的なアプローチとして動物由来の原料を避けたり原材料を明記したりすることは、もちろん問題の根本を解決することができ、大きな改善につながるでしょう。しかし、学生である私たちにとってそのようなアプローチは今すぐに実現できるものではありません。

 

Putting oneself into someone else’s shoesという言葉を聞いたことがあるでしょうか。直訳すれば誰か他の人の靴を履いてみる、転じて「誰かの立場に立って考えてみる」という意味です。口にするのは簡単ですが、実行するのは難しいことですよね。

先ほど話をしたムスリムの子が以前、このようなことを言っていました。

「ムスリムでない友達が以前チョコレートを分けてくれた時、私にそれを渡す直前にさっと裏面を見て成分表を確認してくれた。私の食べられるものかを調べてくれるのを目にするだけで、たとえそのチョコレートが私の食べられないものだったとしても、その気遣いだけで私は嬉しかった。」

 

この話を聞き、たとえ文化の違いが表面化しても自分の心配りで乗り越えられることがあるということに気づかされました。もちろんこれは、国の違いに関する場合だけではありません。年齢や生まれ育ち、性別に関しても「他の人の立場で考える」ということは重要です。しかし私は、日本に来た外国人が日本の言語やマナーさらに自然災害などで不便や恐怖を感じている現状を目のあたりにし、国の間での文化の違いに対する気配りも忘れてはいけないと感じています。

 

これらのことをふまえて、私たちにできることをもう一度考えてみましょう。企業や団体として大きな力を駆使することはできませんが、留学生と距離が近い「大学」という場所にいる自分にできること。考えた結果、私は外国の文化に積極的に触れようと意識するようになりました。食に関しては、ベジタリアンの子のホームパーティーに参加したり、イスラム宗教のしきたりである断食期間(ラマダーン)に参加したり、自分で経験することを大切にし、楽しむようになりました。異国の文化を肌で感じることで、その人たちの目線で考えることができるようになったと思います。

外国から来た人と触れ合う機会になかなか巡り会えない人も多いと思います。ですが、もしいつか日本とは異なる文化の中で育った人に出会った時は、ぜひその人の知る文化を覗き、少しでも触れてみてください。

 

異文化を知る人の靴を履き、その文化という土地を少し歩いてみてはどうでしょうか。


出典

1): 2018年9月9日 法務省『平成30年6月末現在における在留外国人数について(速報値)』http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00076.html

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