UNICEFイエメン事務所 小川亮子さんインタビュー

©Ryoko Ogawa
インタビュー
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10月9日(日)の午前、UNICEFイエメン事務所で子どもの保護専門家として働いていらっしゃる小川亮子(おがわ・りょうこ)さんにVoYJ広報部のメンバーがインタビューをさせていただきました!
(インタビュアー:VoYJ広報部 福居・柳田・金澤)

読者の皆さんが「紛争や平和」について考える機会になれば幸いです。

 

小川亮子さんの経歴(UNICEFのHPより)

大学卒業後:

ハンガリーにて日本語教師のボランティアを行っていた際、旅行先のクロアチアでストリートチルドレンを見たことが子どもたちへの支援に興味を持つきっかけに

帰国後:

民間企業や日本でNGOのインターンをする中で、さらに幼児教育や就学前教育に興味を持つように

大学院入学:

本格的に勉強したいと思い、ロンドン大学の教育・保健衛生・国際開発修士課程(Education, health promotion and international development)へと進学し際開発・教育で修士を取得。この時のテーマは、エイズ孤児のメンタルヘルスなど

大学院卒業後:

バンコクにあるUNESCOアジア太平洋地域事務所でインターン
2009年にはセーブ・ザ・チルドレンのモンゴル・ウランバートル事務所で子どもの保護の仕事に従事。
その後、在タジキスタン日本大使館で “草の根無償資金グラント” 担当として助成金の募集や選考を行いタジキスタンで行われる様々な助成事業を担当。
日本に帰国後は2年間外務省に勤務。
2014年2月より国連ボランティアとしてUNICEF中央アフリカ共和国事務所で子どもの保護に従事。マリ事務所で子どもの保護専門官。
2021年の夏からイエメンにて勤務。現在は性暴力を含むジェンダーに関する暴力に関して、子どもや女性の保護/被害の予防に取り組んでいる。

 

インタビュー

福居:早速ですが、紛争下で子どもたちはどのような危険にさらされていますか?

 

小川:すぐに考えつくだけでも、子どもたちは次のような危険に直面しています。

  • 空爆・地雷・銃撃戦等で死傷してしまう危険
  • 従軍をさせられる(子ども兵士やスパイ、荷物持ち、料理係、兵士の妻などとして)
  • 家族との離散や目の前での殺傷など、過酷な経験によって心理的なトラウマを受ける
  • 学校に行けず、教育を受けられない
  • 新生児に必要なワクチンを打てない
  • 水道システムなど、生活に必要なインフラが破壊される
  • 衛生的な環境で暮らせなくなる
  • 家庭の困窮が原因で、児童労働や児童婚から逃れられない

他にも挙げようとすればきりがないほど、子どもたちの心や体は多くの危険にさらされています。

 

福居:紛争下では、直接的な死傷にとどまらず、私たちの想像もつかないような多くの危険が子どもたちに迫っているのですね。小川さんは、そのような状況下で、子どもたちの教育やメンタルケアに力を入れられていたと思います。ご経験の中で、教育やメンタルケアが大切だと感じた瞬間はありますか。

小川:はい、たくさんあります。イエメンでは、内戦が始まってから9年目に突入しました。紛争が始まった頃に小学校に入学した子どもたちは、もう中学校を卒業しているはずの年齢です。子どものころの9年間を紛争下で過ごすということは、非常に重大な問題だと考えています。学校は勉強をする場だけではなく、友達と遊んだり安全な遊び場があったりと、子どもが成長し、社会性を身につける場でもあります。このような場が破壊されることは、将来を担うはずである子どもたちの大切な成長の機会が奪われている、つまり、将来の国のあり方が奪われているということになります。UNICEFは、学校の修築や先生の研修、給料の援助といった学校を復興させる支援の他にも、女の子にも教育の場が与えられるような啓発活動や、子どもたちが抱える問題を先生に相談できるような環境づくりに取り組んでいます。また、心理的なトラウマを抱える子を早期に発見して治療できるシステム作りにも力を入れています。

 

©Ryoko Ogawa

 

金澤:暴力の被害を受けた家族や地域社会は、どのような影響を受けてしまうのでしょうか。

小川:目の前で家族や友達が暴力にさらされていたり、仲間を助けられなかったりというような経験は、深刻な心理的トラウマとなり、家族の崩壊や、ひいてはコミュニティが保てなくなることもあります。

少し話は逸れますが、避難民キャンプでは、さまざまな原因により、家族やコミュニティから離脱して避難している女性が多くいます。彼女たちには、守ってくれる人や環境がなく、弱い立場に置かれやすいです。そのため、性暴力が起きやすくなる環境下でいかに被害を予防できるかも、UNICEFの重要な役割だと考えています。夜中でも安全にトイレを使用できるように、電灯をつける、内側から鍵をかけられるようにする、といった取り組みもその一つです。

 

柳田:イエメンでは長い間、国を分かつような紛争が続いています。そのような状況下で育ってきた子どもたちは、敵対する集団に対して、憎しみや対立感情を抱かざるを得ないと思います。そのような中でも、対立感情を和らげ、平和を構築していくために、何か取り組まれていることはありますか。

小川:確かにそれはとても大切な視点ですね。実際に、敵対している双方に政策や教育カリキュラムがあるため、その下で育った子どもたちにとって、対立感情は拭えないものとなってしまいます。対立感情を和らげていくのは、時間もかかり、簡単なことではありません。しかし、それを乗り越える力を持っているのもまた、子どもたちであると考えています。イエメンではありませんが、中央アフリカでは、UNICEFのサポートにより、紛争終結後に、子ども国会(Children’s Parliament)が開かれ、各地から集まった子どもたちが、今後の国のあり方について話し合いました。それは現在まで継続されています。紛争を引きずらず、紛争の経験を経てどのように平和な国を築いていくか。それを子どもたちが考え、声を上げることには、とても意味があり、UNICEFがそれをどうサポートしていくかも重要だと思います。

柳田:子どもを「守る存在」として捉えるだけでなく、「エンパワーメントする存在」として捉えるといった点にはっとさせられました。

 

福居:私は、ニュースで紛争下の悲惨な状況を見るたびに、自分の無力感に打ちひしがれることがあります。日本で暮らすユースが国際平和のためにできることは、何かありますか。

小川:国連職員やNGO職員でなくても、日本の若い方たちができることは本当に沢山あると思います。

①まず遠く離れた地域で起こっている紛争についてできるだけ自分事として考えてみる。

自分が被害を受けたこの子の立場だったら……と一歩踏み込んで考えてみる。関心のある事柄からでよいので多くの情報にあたって学び続けること。

②日本ではあまり取り上げられないような地域紛争について関心を持ったり、声なき声に気づいてあげたりすること。

できればそのような人たちのために自分が声を上げる、または他の人が上げている声に賛同するといったことでも十分だと思います。

③可能ならば自分の目で海外の現場を見ること。

価値観や考え方を見直す機会になると思います。また海外の人と関わり合う中で、「自分は日本人だから……」と他国の人の身に起こっていることを切り離すのではなく、同じ人間として親身に捉えることができるようになると思います。

 

福居:日本のユースが紛争のことについて学べる媒体は何かありますか?

小川:私のおすすめは以下に挙げる通りです。私の好みなので少し偏ってしまっているかもしれませんが(笑)

【書籍】

  • ハンス・ロスリング『FACTFULNESS』

―数字から得られる情報をどうかみ砕いたらよいのかなど、情報の見方を学べる。

  • 東大作(編)、緒方貞子(序)『人間の安全保障と平和構築』
  • 緒方貞子『女性と復興支援―アフガニスタンの現場から』
  • 中村哲『天、共に在り アフガニスタン30年の戦い』

―自分にとってのロールモデルを決め、その人の著作から学び始めてみる。

  • ジャレド・ダイアモンド 『銃・病原菌・鉄』

 

【オンライン教材】

  • RFI

―フランスの国営ラジオ。 フランスが宗主国だったアフリカ諸国の情勢について知ることができる。英語でも聴ける。

―途上国・国際協力に特化したNPOのwebサイト。記事の読み方や書き方を学べる講座もおすすめ。

―世界で起きたニュースを日本語に翻訳し、記事にしてくれているサイト。

―ジャーナリストや専門家など、各分野に造詣の深い方が講師を務め、セミナーを開催している(オンラインコンテンツもある)。マリで働き始めた後で「アフリカ概論」を受講。

 

 小川さんの現地でも学び続ける姿勢に敬服しました!

 

感想

柳田:すごく貴重なお話をありがとうございました。日本にいると、紛争のことが身近に感じられず、現地でどのようなことが起こっており、職員の方たちがどのような思いで働かれているのかを具体的に知る機会がないので、貴重な経験となりました。自分も、将来は国際機関で平和に関するような仕事をしたいと思っているので、すごく参考になりました。

金澤:紛争下の子どもたちがどのように希望を持ち、エンパワーされていくのかについて興味深くお聞きしていました。ありがとうございました。

福居:現地で働かれている職員の方の言葉には、とても重みがありました。海外で起きている紛争を、出来る限り自分事として捉え、何か働きかけられないかを考え続けたいと思います。


 

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