「なんみん」の正しい使い方 ~世界難民の日を前にして~

この日なんの日
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皆さんは、「なんみん」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?

聞いたことが無い人は少ないと思います。漢字では「難民」、英語ではRefugeeといいます。

では、みなさんは「難民」の正しい意味をご存知ですか?

 

日本では、「買い物難民」「介護難民」「ネット難民」「英語難民」から「結婚難民」まで、「〇〇難民」という表現が最近多用されています。最近では、2019年12月に某化粧品会社が「日本の、美容液難民へ。」という電車の車内広告を掲載して問題となり、撤去する事態となりました。

これらの表現を見ると、「〇〇難民」という言葉は、「〇〇できない人」、「〇〇が入手できない人」、「〇〇へのアクセスが限られている人」という意味で使われているように感じられます。

 

しかし、これらは「難民」の本来の意味とは異なった使われ方です。「難民」の定義は、1951年に採択された「難民の地位に関する条約(難民条約)」第1条A(2)によって

1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する者であつて、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であつて、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの

と定められています。

その後、1966年に採択された「難民の地位に関する議定書(難民議定書)」第1条2において、難民条約の「1951年1月1日前に生じた事件の結果として」という時間的制約が撤廃されました。これにより、1951年以降に発生した事件の結果、難民条約第1条A(2)に定められた状況になった人も「難民」として扱われるようになりました。

 

条約の文言をそのまま読むと分かりにくいですが、言い換えると次の条件を満たす人を「難民」と定義しています。

    次の理由から、迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖を有すること。

  1.     人種
  2.     宗教
  3.     国籍
  4.     特定の社会的集団の構成員であること
  5.     政治的意見

    国籍国の外にいること。

    国籍国の保護をうけることができないこと。もしくは、保護を受けることを望まないこと。

    国籍国に帰ることができないこと。または、国籍国に帰ることを望まないこと。

 

なお、無国籍者(国籍を持っていない人)については、「国籍国」の部分を「常居所を有する国」つまり、普段住んでいる国、に置き換えて読みます。

すごく簡単に言えば、迫害を受ける恐怖から自分の住んでいた国の外に逃れた人のことを言います。この定義に当てはまる人は「条約難民」と呼ばれます。この定義に当てはまらない人であっても、紛争などの戦禍を理由として他国へ逃れた人も難民として保護されるのが一般的です。

難民を保護するのは、主に難民が逃れた先の政府です。しかし、受入国の政府だけで全ての保護・支援を行うのには限界があります。そこで、難民に対して国際的保護を与えることなどを目的として「国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)」が創設されました。日本人の故緒方貞子氏が高等弁務官を務められたことから、名前を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。ちなみに、UNHCRは、ユー・エヌ・エイチ・シー・アールと一文字ずつそのまま読みます。

 

日本も難民条約、難民議定書に加入しています。難民条約への加入の際に「出入国管理及び難民認定法(入管法)」を改正し、第1条第3項の2で、難民とは「難民の地位に関する条約第1条の規定又は難民の地に関する議定書第1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう」と定義されています。

つまり、国際条約と同じ定義を採用しているわけです。

一見、普通に見えますよね?

皆さんは、先ほど「紛争などの戦禍を理由として他国へ逃れた人も難民として保護されるのが一般的です」と書いたのを覚えていらっしゃるでしょうか。国際機関をはじめ、多くの国では「紛争などの戦禍を理由として他国へ逃れた人」(いわゆる紛争難民)も難民として保護するか、難民に準じた保護(これを「補完的保護」といいます。)を与えています。

 

さて、そろそろ本題に戻りましょう。

「〇〇難民」という形で「難民」という言葉が濫用されていると指摘しました。

皆さんも、無意識のうちに使ってしまっている時があるのではないでしょうか。

言葉は生き物ですから、ある言葉に今までになかった意味が加えられたり、新しい言葉が認められたりするは当然の事です。最近では、いわゆる「ら抜き言葉」の問題がありました。

しかし、この記事を読んでいただいた皆さんには、「〇〇難民」という使われ方が「難民」という言葉の本来の意味とは違う使われ方をしていることに気付いていただけたのではないでしょうか。

日本は、難民認定数が非常に少ない国であると言われていますz(2019年、法務省は10、375件の難民認定申請を受理し、44人に難民の地位を付与しました1)。認定率は0.4%です。)

そのような中で、「〇〇難民」という言葉が濫用され、「難民」についての誤ったイメージ・考え方が広まってしまうことを私は非常に心配しています。

誤ったイメージが先行して広まってしまい、支援を必要としている「本当の」難民への関心が薄くなり、必要な支援を行うことができなくなる懸念があります。

 

言葉を使う前に、少し手を止めて、

「この使い方って、正しいのかな?」

「難民って、ほんとはどんな人のことだっけ?」

と考えて頂けたら嬉しいです。

そして、できれば、本来の意味から離れている場合、「〇〇難民」という言葉は使わないでいただけると嬉しいです。

 

6月20日は、国連によって「世界難民の日」と定められています。この日は、「UNHCRをはじめとする国連機関やNGO(非政府組織)による活動に理解と支援を深める日2)」とされています。

難民問題は、決して「遠い世界の出来事」ではありません。

身近に使われている言葉の本当の意味を知り、「難民」について少し考えてみてはいかがでしょうか。


1)法務省HP「令和元年における難民認定者数等について」http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00004.html(最終閲覧日:2020年5月16日)。
2)UNHCR日本HP「世界難民の日」https://www.unhcr.org/jp/wrd(最終閲覧日:2020年5月16日)。

 

 

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