私は「被災者」なのか?

宮城県石巻市の復興まちづくり情報交流館にて。誓いを立ててきました。
VoY全国駅伝
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「福島の子どもたちに元気を!」

こううたって、私の住んでいた福島県では子どもたちに様々な機会が提供されてきました。

有名なサッカー選手が来る、歌手が来る、有名な講師が来て勉強を教えてくれる…

様々な方たちが来てくださったことは本当にありがたかったものの、それを自分が享受することになんとなく違和感を感じていました。

「被災者」だから元気になってほしい、いい機会を提供してあげたい、と人々は言ってくれているようだが、私はその対象に当たるのか。私は本当の震災直後を除けば比較的水にも食料にも電気にも困りませんでした。原発事故直後は県外へ一時的に避難したものの、当時はまだ小学生だったこともあって震災が原因で落ち込んだことなんて一度もありませんでした。だから、福島にいるだけで色々な機会に恵まれてラッキー、なんて不謹慎なことまで無意識に思っていたくらいです。

連日放送される震災のニュース。地元放送局の番組では震災から数年経っても、毎日避難所で生活する方たちの声を放送し続けていました。それをぼーっと見ながら、気の毒に思うことはあっても、自分が何かをしよう、しなければならないなんて少しも思うことはありませんでした。

気持ちが変化したのは高校2年生の時に参加した第35回福島県総合文化祭(その年度の活動優秀校が合同で公演や展示を行う場)での特別合唱。震災から6年が経とうとしていました。東日本大震災等の影響で避難先の自治体の仮設校舎で存続していた福島県相双地区の高校5校が、次年度から休校になるため、それらの高校の校歌を他地区の高校の合唱部と管弦楽団が合同で演奏するというものでした。私も福島県郡山市内の高校の合唱部に所属していたため、参加することになりました。

本番は、まずステージ上で休校となる高校の代表の生徒がスピーチをし、その後その高校の校歌を私たちが演奏するという流れで行われました。

休校になる各校の代表が震災から今までの約6年間、何を思って生活してきたのかをステージ上でスピーチしているのを後ろの雛壇で聞いていました。地域の人たちに支えられてサテライト校で高校生活を送れたことへの感謝、恩返しに地域を元気付けようと部活の大会で奮闘したこと、いつか母校が復活するまで、学校の伝統を守り続ける意志。私には想像もできないくらい悲惨な光景を目の当たりにした生徒もいたでしょうし、故郷から離れての生活は辛いこともたくさんあったでしょう。それにも関わらず彼らは明るく、力強く、自分や地域の将来について希望を持って語っていました。同じ時代に、同じ福島で生活してきた同じ高校生なのに、彼らは自分と比べてとても大人に見えました。それと同時に、「被災地」にいることによって「被災者」として扱われながらも、震災の経験に向き合ってこなかった自分を、辛い経験と向き合ってきた彼らと比べて、恥ずかしく思いました。

大学進学のために上京したことを機に、自分のアイデンティティとして出身地福島を意識するようになりました。震災の経験に改めて向き合うために、大学で最初に書く論文のテーマは震災に関連するものにしました。自分が括弧付きの被災者であると言語化することができたのはこの時でした。

リサーチを進める中で、様々な震災に関する文献を読んでいると、自分でも驚くことに、自然と涙が出てきました。

震災を経験した当時、そしてその後高校を卒業するまでずっと、被災者の声に深く共感することはあっても、涙することまではありませんでした。

なぜ、8年も経った今になって涙が溢れてくるのか。私が故郷を離れて、家族と離れてくらすようになって、自分にとって故郷や家族がどれだけ大切なものかを実感したからだと思います。大切さを知ったからこそ、それを失った方々の痛みを、悔しさを思うと涙せずにはいられないのです。

高校生の時、震災等の影響で休校になる高校の生徒の話を生で聞き、その学校の校歌を歌った経験、そこで津波の大きさを想像したこと、同じ地域に住んでいたからこそ、そういった人たちの気持ちを、私は「被災地」の外の人よりもよく知ることができた。だからどこかで私は被災者の方々とつながっている。

相対的に見て被災者ではないけれど、「被災地」にいた私だからこそわかることがある。私にできることがあるとしたら、それをなるべく多くの人に伝えることかもしれない。そう思うようになりました。

東京にいる周りの学生は震災を他人事としか思っていなくてすっかり忘れ去っているように見えます。それも当然といえばそうでしょうが、東京にいる人にも震災の教訓は記憶され、思い出されるべきだと思いますし、未だに解決されていない様々な問題について関心を持ってもらうことは重要ではないかと思います。

現在は東日本大震災について海外の学生に向けてお話をしたり、地元で地域活性化に関するイベントを開催するなどの活動をしています。

自分の経験に向き合えなかった後悔があるので、今はいつも自分の本当の気持ちに向き合って、それを言葉にして伝えることを大切にしています。気持ちののった言葉は本当に人の心に響くようで、感動したとか、心に響いたとか言って頂けることがやり甲斐です。

これからも自分だからこそできることを見つけて、取り組んでいけたらと思っています。


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