フィンランドでの研修後、日本の教育について考えたこと

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フィンランドと聞くと、オーロラやムーミン、サンタクロースのイメージを持つ人が多いかもしれませんが、実は教育大国としての一面も持っています。OECDが15歳の生徒を対象に3年ごとに実施しているPISAという学力テストで、フィンランドは世界でトップレベルの成績を修めており、近年その教育が世界中から注目を集めているのです。

そんな中、幸いにも私は去年の夏に大学のプログラムでフィンランドを訪ね、現地の教育について直接話を聞くことができました。以下ではその時の体験をもとに考えたことを大きく二つに分けて記していこうと思います。

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フィンランドで教師になるためには大学の学部を卒業したあとに修士号を取得する必要があります。修士課程における研究活動を通じて、学問をする上で必要な様々な能力を身につけなければならないので、フィンランドでは優秀でやる気のある生徒しか教師になれないそうです。そのためフィンランドにおいて教師は医者や弁護士に並ぶほど社会的地位が高い職業だそうです。


教師という職業に限らず、一般に社会的地位の高い職業は人気が高いため優秀な人材が多く集まり、そのことによってその職業の社会的地位がさらに安定する、という相乗効果のようなものが期待できるのではないかと思います。(これはあくまでも自分の直感で、きちんとした根拠がある話ではないです。)


日本では学部を出れば教員免許を取ることが出来ますが、日本でもフィンランドのように修士号の取得を教員免許取得の条件にするのもよいのではないかと思います。そうすることで単に優秀な人材を集められるだけでなく、教員自身が修士課程で研究活動を経験していることで、中学高校の時期から大学での研究活動を見据えた教育ができると思うからです。


というのも、日本でずっと教育を受けてきた私は、中学高校の間は、そのとき勉強していることが大学以降の研究活動にどのように活きるのかについて具体的なイメージを持てずにいました。大学の授業を受けて初めて、数学や物理が工学や理学にどのように応用されているのか、歴史の教科書に書かれている事柄が具体的にはどのような方法で検証されているのかについてなんとなくわかるようになりました。高校の頃からこれらについてのイメージをつかめていれば進路を決める際に少し違った選択をしていただろうと思います。


また、個人的には、最初から教員を目指している人だけを教員にするのではなく、教職をとるための大学の講義を履修していなくても、修士号をとっていれば、取得した修士号と関連の深い科目の教員免許を取得できるような制度が整えられれば良いのではないかと思います。
ただし上記のような問題はそもそも教師の問題ではなくカリキュラムの問題なのかもしれません。例えば日本の高校物理では数学の進度の都合上、微分積分を用いずに教えることが原則になっていますし、大学で学ぶ法学や経済学、心理学や哲学などの分野は、中学高校で扱われることすらほとんどありません。しかし、もし中学高校の教員の中に上記の分野の研究をしてきた人がいれば、仮に現行のカリキュラムを変えることができなくても生徒に大学での学問のイメージを持たせられるのではないかとも思います。ちなみにフィンランドの教育ではカリキュラムの自由度が非常に高いそうですが、日本で安易にカリキュラムの自由度をあげようとすると、単に今よりも教育が体系的でなくなるだけ、という結果になる恐れもあるので、私自身は今すぐ日本のカリキュラムの自由度を上げるべきだとはあまり思いません。

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フィンランドには私立の学校がほとんどなく、地域間・個人間の学力の格差がほとんどないことが特徴です。そのためいわゆる「名門校」という概念が存在せず、小学校から大学までほとんどの生徒は家から一番近い学校に通うそうです。また授業では学力を競い合わせるようなことはさせません。グループディスカッション等を通じて、それぞれの得意不得意を補うように、生徒どうしが協力し合うような雰囲気をつくることで、単に学力をつけさせるだけでなく、社会の中で生きていくための協調性を身につけさせようとしています。また成績の悪い生徒に対する補習制度が充実しているそうです。小学校から大学まで授業料は無料で、日本にあるような塾は存在しないそうです。


フィンランドの人口はたったの600万人弱で、資源も乏しいため国民を一人失うのも惜しいという意識があるそうです。上記のような教育は、そのような意識があるからこそ実現しているのだと思います。しかしながらどこの学校も平均的に同じくらいの学力レベルであるため、特別優れた生徒の力をさらに伸ばせるような環境がないという欠点もあるようです。

 

これからは、今の日本の教育の良いところは残しつつ、フィンランド教育を参考に落ちこぼれの生徒を作らないような制度づくりもしていく必要があるのではないかと思います。


 

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