UNFPAケニア事務所 新井さつきさんトークセッション【第1弾】

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こんにちは、VoYJ事務局です。

今回は、2021年11月21日(日)の東京大学駒場祭にて国連人口基金(UNFPA)ケニア事務所の新井さつきさんをお招きして開催したトークセッションの内容を記事にしてお送りします。

日本政府のJPO制度(※)を通じてケニアに派遣されている新井さつきさんは、2020年からUNFPAケニア事務所でジェンダー専門官として勤務されています。

※JPO(ジュニアプロフェッショナルオフィサー)派遣制度
各国政府の費用負担を条件に国際機関が若手人材を受け入れる制度で、外務省は本制度を通じて、35歳以下の若手の日本人に対し、原則2年間国際機関で勤務経験を積む機会を提供している。

今回の第1弾では、ケニアでの具体的なお仕事の内容についてお伺いします。
それでは、セッションの模様をお楽しみください。

当日の動画アーカイブはこちら↓

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れい:今回のトークセッションでは、国連人口基金(UNFPA)ケニア事務所にてジェンダー専門官として勤務されている新井さつきさんをゲストとしてお招きし、現地での仕事内容やユースの国際協力について、理解を深めていきます。
国連人口基金(UNFPA)は、すべての妊娠が望まれ、すべての出産が安全に行われ、すべての若者の可能性が満たされるよう活動する国連機関です。具体的な活動は、家族計画の普及や安全な妊娠・出産のための環境づくりと人材育成、DVなどのジェンダーに基づく暴力の予防と被害者のケアなど、多岐に渡ります。これらの活動は、持続可能な開発目標(SDGs)の項目の多くとかかわっていますが、特に目標3「あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」および目標5「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」に貢献していると言うことができます。

©UNFPA駐日事務所

みずゆう:そんなUNFPAのケニア事務所で勤務されている新井さつきさんは、外務省を通じて国連機関に日本人職員を派遣する制度であるJPO派遣制度を通じ、2020年からジェンダー専門官を務めていらっしゃる若手職員の方です。
本日は、現地でのお仕事の話からキャリアの話、学生時代のお話など、時間が許す限りお話をお伺いします!

れい:それではまず、最初の質問です。UNFPAケニア事務所での活動について、簡単にお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

新井さん:外務省のJPO制度を通じ、2020年の1月からUNFPAケニア事務所のジェンダー専門官を務めています。各国のUNFPAでそれぞれ取り組まなければならない課題があるのですが、ケニアでは、大きく分けて2つの問題に取り組んでいます。1つが、性暴力やDVを含む「ジェンダーに基づく暴力(GBV)」。もう1つが、「女性器切除」という女性の精神や健康を害する慣習や、児童婚などの「有害な慣習」です。特にケニアでは、GBVについては約45%の女性が生涯に一度は経験し、女性器切除と児童婚については約5人に1人の女性が経験すると言われています。
政府を対象としたハイレベルでの支援もあれば、コミュニティに対するアプローチも行っています。各国事務所は政府の方針に従って政府を支援することになっているため、UNFPAケニア事務所では、政府に対して制度や政策づくりの支援を行っています。また、コミュニティレベルでは、GBVや有害な慣習の被害者やリスクのある少女たちを守る活動をしています。

れい:わかりやすい説明をありがとうございます。特に途上国では女性や子どもは不利益を被りやすいと言われますが、ジェンダー平等はケニアを含むアフリカ諸国だけの問題ではなく、私たちにも関わる問題なので、身近な問題として自分事に引き付けて考えていきたいです。

みずゆう:開発の上流から下流まで幅広く活動されているのですね。新井さんは、日本の企業である明治ホールディングスとのプロジェクトを担当されたそうですが、そのパートナーシップの中で、印象に残ったことや意義を感じた点などございましたらお伺いしたいです。

新井さん:はい、UNFPAは企業との連携にも力を入れています。
持続可能な開発目標(SDGs)は、途上国が抱えている課題の解決を目指したミレニアム開発目標(MDGs:SDGsの前身となったもの)とは異なり、国際社会全体で課題を解決するためにより幅広い人々を巻き込もうという方針のもとで設定されました。そのような背景もあり、UNFPAとしても政府やドナーだけでなく企業を巻き込んで活動することを重視しています。
今回UNFPAケニア事務所が明治ホールディングスさんと協働して行った活動は「生計向上支援」です。女性が暴力に遭いやすい一つの原因として、女性が弱い立場にあるということがあります。「女性は家で家事・育児をするもの」という価値観がまだまだ強く、自分でお金を稼ぐ手段がないために暴力を受けやすい傾向があります。そこで、女性が自分に自信を持ち、暴力に遭わないようエンパワーする目的で、石鹸づくりを通した生計向上支援を行いました。ただ石鹼を作るだけではなく、それを通して収入が向上するように、「どうやってマーケティングすればよいのか」「どうやって自分たちが作った石鹸のブランディングをすればよいのか」といったビジネス研修を行い、プロジェクト終了後も自分たちでビジネスを展開できるよう支援しました。

石鹸作り研修を受けている女性たち
©UNFPAケニア事務所

みずゆう:ありがとうございます。とても面白いプロジェクトだと思いました。自分が収入を得るという価値観がない場合には特に強力なエンパワーメントだと思いますし、実質的なビジネススキルまで得られるのが良いですね。

さとこ:このように現地の方を含め多くの関係者を巻き込むために、どんなことを意識していらっしゃいますか?どうすればうまくいく、またはこうした方が良かった、というようなことがあれば教えてください。

新井さん:現地の人を巻き込む、というより現地の人が主役で私たちはあくまでサポートする側なので、なるべく現地の人とともにプロジェクトを作っていくというのが重要だと思います。ケニアでは地域に根付いて活動する団体が多くあるので、そのような団体と連携することによって、本当にその地域の女性たちが必要としているプロジェクトを実施するということが大切です。
また、UNFPAのプロジェクトは、生殖に関わる健康や女性のエンパワーメントなど多くが女性に関わるものですし、外部の方からも「UNFPAは女性を支援しているんでしょう」と思われることも多いのですが、実は男性や少年を巻き込むことも非常に重要です。男性が様々な分野で意思決定権を持っていることが多く、女性の社会進出や発言を男性が支援するようになることで、女性が活動しやすくなります。そのため、女性だけにフォーカスするのではなく、男性や少年たちを巻き込むよう活動しています。

みずゆう:ありがとうございます。先日国際男性デーだったこともあり、自分の中でもそういう男性のサポートだったり地域のサポートなど、周囲のサポートはとても大事だとよく考えます。そのようなアプローチが現場でもなされているのだと分かり、とても意義深いものだと思いました。

サクラコ:質問なのですが、そのように現地でプロジェクトを行うとなると、異なる文化に入っていくということがたくさんあるのではないかと思います。異なる文化に入っていく中で特に気をつけていらっしゃることがあったらお話を伺いたいです。また、その中で難しいと感じることや、逆に面白いと感じることがあれば、そちらの方も合わせてお話を伺えればと思います。

新井さん:はい、文化であったり宗教であったり、国の壁と言うものは本当に大きいと感じます。私もこの開発分野で働いてもう9年くらいになるのですが、毎回どんな国でも難しいと思うことがたくさんあります。
まずひとつ一番大切だと思うのが、「自分が外国人である」ということを忘れないということです。ケニアでは英語が普及していますが、やはり人々の母語はスワヒリ語や他の民族言語です。現地の言葉が話せないことや見た目の違いから、自分は外国人として意識されるということを、支援者として常に忘れてはいけないと思います。自分は外国人でありながら、ジェンダーに基づく暴力や有害な慣習などのセンシティブな内容に直接関わっていくからです。
例えば「ジェンダーに基づく暴力を受けたことはありますか?」「有害な慣習が存在しますか?」などの質問は、たとえ自分が外国人でなくても絶対に言ってはいけないことです。外国人であり支援者である身としては特に、どのようにその人個人のストーリーをしっかり理解して支援していくかということが重要です。直接的に問題に踏み込むのではなく、「どういった人生を歩んできたのか」「どういったことをしてきたのか」といった「それぞれの人生」にフォーカスして話を聞くよう気をつけています。
とても興味深いのは、一人ひとりにストーリーがあり、なかにはとてもたくましい女性たちがたくさんいるということです。「自分はジェンダーに基づく暴力、性暴力にあった経験が2回もある。だけど、私は他の人に同じ経験をさせたくないから、自分がアクティビストになって、他の女性たちを救っていくんだ」。このような、とても力強い言葉を発する方がたくさんいます。自分自身も勇気づけられますし、この仕事をしてきてよかったなと思います。

サクラコ:ありがとうございます。私も将来国際的な仕事をしたいと考えており、文化に入っていく中で気をつけることのお話もそうですし、それぞれの方のストーリーにフォーカスするという点も、とても大切だなと思います。

わかな:今の質問に関連して少し掘り下げる形になるのですが、もちろん文化の壁を乗り越えて同じ目標に向かって進むということもあると思いますが、何か文化的な壁にぶつかってしまったりして、なかなかプロジェクトが思うように進まないような場合もあると思います。そのようなときは、具体的にどのように解決していらっしゃいますか?

新井さん:ケニアに限らないことだとは思いますが、時間・日程通りに物事が進まないということが一番の課題だと思います。
特に国連では、主に政府と一緒に活動することになっていますが、政府組織を巻き込むことは非常に難しいです。政府の予定は前日まで分からないこともあるので、政府とともにイベントを企画しても前日まで誰が来るか分からない、準備していたのにキャンセルになる、ということもあります。
今年はケニアの大統領とUNFPAでイベントを企画をすることがあったのですが、5月くらいから始めた企画が一旦ストップしてしまって、その後話が進んでいなかったのですが、急に12月に行うことになりました。土壇場で物事が決まり、それに対応していかないといけないというのが一番難しいところだと思います。
必ずしも物事が予定通りに進まないということを承知の上で、柔軟に対応しながら、キチキチせずに仕事をしていくことが重要なのかなと思います。

れい:ありがとうございます。ここまで異文化における活動のお話を伺ってきました。先ほど女性以外も巻き込んでいくことが重要と仰っていましたが、たとえば宗教指導者や長老などの方へのアプローチなど、現場のコミュニティに入り込んだアプローチというのは経験されたことはありますか?もしあれば、その内容と興味深かった点をお伺いしたいです。

新井さん:はい。UNFPAとして、宗教指導者や長老の方に協力をお願いすることはたくさんあります。先ほど有害な慣習として「女性器切除」を挙げましたが、女の子から女性になるための成人の儀式のような形で、女性の性器を切除するという伝統的な慣習です。成人といっても10歳以下の女の子に行われることも多いです。このような女性器切除を含む伝統的な慣習が女性の心身にとって有害であることを理解してもらうために、村で大きな影響力を持っている長老や宗教指導者を巻き込むことは非常に重要です。彼らが「女性器切除や児童婚はいけないんだ」と唱えることは、村の人々にとっては大きな意味を持ちます。UNFPAでは毎年、そういった長老や宗教指導者に対して啓発活動を行うだけでなく、「この村では女性器切除を行わない」という宣言書を出してもらうということも行っています。
これは今年の写真なんですけど、ケニアにあるサンブルという県で、宗教指導者たちが「女性器切除は行わない」と宣言をしたイベントです。真ん中にいるのがウフル・ケニヤッタ大統領、周りにいるのがサンブル県にいる長老や宗教指導者で、彼らが大統領と一緒に、「もう女性器切除はしない」という宣言をしました。今年のひとつの大きな成果だったと思います。

ケニアサンブル郡にて。大統領と宗教指導者、長老が女性器切除を行わないと宣言
©UNFPAケニア事務所



みずゆう:ありがとうございます。写真で見せていただけるとやはり実感が湧きますね。テレビや記事で宗教指導者と連携している、というのを見たことがありましたし、見たことのある方もいらっしゃるかと思うのですが、それを実際に宣言書にしたりするのですね。一個一個の村にインパクトがありそうだなと思いました。また、現場の方からそういったお話を伺うことで実際にそういったことが現場で行われているのだという実感が湧いて感動しました。

ここからは少し新井さんのお仕事やキャリアのお話を伺おうと思います。新井さんは現在、ジェンダー専門官としてお仕事されているとのことでしたが、ジェンダーに特化したお仕事をしたいと思うようになった経緯や、ジェンダーについての見方が変わった経験などもしお持ちでしたら、お伺いしたいです。

新井さん:私も皆さんと一緒で、学生時代から国際協力に興味があり、国際開発協力に関するゼミに所属して、特に日本がどのような国際開発協力をしてきたのかということを中心に学んでいました。そういった中で、大学時代に学んだことを生かせるような仕事をしたいと思ったことが、国際協力の仕事を始めるきっかけになりました。そのあとすぐに大学院に行き、大学院でも継続して国際開発協力を学びました。国連のインターンなどを経て、最初に就いた仕事がパキスタンの日本大使館での仕事でした。
皆さんもご存知かもしれませんが、パキスタンはインドやアフガニスタンの隣にある、南アジアの国のひとつです。そこで、村やコミュニティを訪れる機会がたくさんありました。その中で、パキスタンでは男性と女性の役割がきっちり分かれていることを感じたんです。「男性が表に出て女性は家のことをする」という慣習が地方に行けば行くほど強く、村であれば、女性が家事をして、洗濯や料理の水を得るために2〜3km離れた場所に水汲みに行って、子育てもする。そのため、女性に対する教育があまり進んでいないという印象を受けました。
同国で2年間仕事をしたのですが、その中で一番衝撃を受けたのが、「名誉殺人」です。パキスタンの地方では特にお見合いでの結婚が多いのですが、そのようなお見合い結婚は、女の子自身のためというよりは家族のためという部分が大きく、女性がお見合いを断ることに対する壁が高いんですね。お見合いを断ると、家族に対して不名誉をもたらしたことになってしまう。そして、最悪の場合、家族に殺されてしまいます。そういったケースが、私が勤めている2年間の間でもいくつかありました。他にも、結婚前の女の子が男性と歩いていたら、それは不潔なことで、家族としてはその女の子を受け入れられずに殺してしまう、というようなこともあります。日本ではなかなか考えられないことですが、パキスタンでは実際に起きていることです。そうしたことを目の当たりにし、女性のエンパワーメントやジェンダー平等のために仕事をしていきたいと思ったのが私のキャリアのスタートでした。

サクラコ:お話ありがとうございます。最初の方でお話されていた有害な慣習に対してのアプローチの重要性というところもよく分かりました。お話を伺っていて、私もショックを受けました。
今のお話にも関連していると思うんですけど、私たちUNiTeでも、SDGsの大目標である「誰一人取り残さない社会」を念頭に活動しています。たとえばボイス・オブ・ユース JAPANでは普段上げにくい声を拾い上げ、SNSのように流れて行ってしまうことのない形で掲載したり、EMPOWER Projectでは誰もが助け合えるような社会の構築を目指したりしているわけなんですよね。ここで私たちは声の上げにくさを感じている若者や、助けを必要としているけれど自分の困りごとを大声で共有したくはないという方々を「取り残された」人々として認識しているのですけれど、新井さんはどのような状況に置かれたどんな人々について、最も「取り残されている」とお感じでしょうか?

新井さん:そのように思う瞬間は多々あります。特にケニアでは人口の60〜70%が35歳以下の若者で、UNFPAケニアとしても、若者、女性、青少年をフォーカスする活動が多いです。それは大切なことではありますが、その中で、高齢の被害者に対してはなかなか焦点が当たっていないと感じることがあります。高齢者ももちろん暴力を受けることがあるので、なるべく高齢の女性も考慮することを機会がある度に提案してはいますが、そこが今後の課題だと思っています。
また、取り残してはならない人々として、「障害者」の方々がいると思います。UNFPAとしても様々な場面で障害を持つ方を巻き込むようにしています。ただ、仕事をしていてふと感じるのは、障害者といっても本当にいろいろな障害の方がいるということを私たちも忘れてはいけないと思っています。身体障害者は比較的巻き込みやすいところがあると思います。例えば車椅子に乗っている方や松葉杖の方は視覚的にも分かりやすいですよね。でも、そのように認識しやすい障害の他にも、視覚・聴覚障害の方、知的障害の方もいれば、精神障害の方々もいます。さまざまな障害を抱えている方がいるなかで、まだ十分にリーチアウトすることができていないと、今回質問をいただいて思いました。それぞれバックグラウンドも思いも考え方も違う中で、さらに違う障害を持っている場合、それぞれのニーズはかなり異なると思います。そういった方に配慮して対応していくことは本当に重要だと思っていて、私自身もどういうふうに巻き込めるか、最近よく考えています。特に知的障害の方などは、なかなか声を上げにくいですよね。途上国では先進国ほど施設やケアがしっかりしていないし、声をあげにくい環境だと思うので、そういった方々が取り残されていることを、仕事をする中で時折気づかされます。

さとこ:ありがとうございます。
まさにUNiTeが行っているエンパワープロジェクトでも障害に対するアプローチを行っているのですが、「困っていることを共有しにくい」と感じている人、精神障害を持っていることを明かしにくい人、明かすことでバイアスをかけて見られてしまう人がいることを改めて実感しました。

 

次回は、新井さんご自身のユース時代の経験や国連インターンについて、ユースがさらに話を深掘りしていきます。第2弾もお楽しみに!

 

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