トントントン! トントントン!
ある住宅街に、また一軒、家が建とうとしている。大工さんや、家に住む予定の家族は、朝から大忙し!
「ここが土地です。」
「わー、いいところ!」
そんな中、一人、考え込んでいる壁がいた。名前は壁お。そう、この童話の主人公ね。
「僕って、この家の壁になるの? まだ、世の中のことも、壁の役割も、何も知らないのに!?」
そうして、思い立った壁おは、一人、逃げ出し、旅に出た!
「さあ、僕は、いろんな壁に会いに行くぞー。」
「さて、どこに行こうかな。」
てくてく、ぴょんぴょん。
「あ、学校がある。あそこの壁に会いに行こう!」
学校の壁に歩み寄り、観察してみた。
「おー、小学生のボール遊びで、ボールが当たって、痛そうー! あれ、虫なんて止まっちゃって。」
「次は、駅へ行こう! へえ、壁を仕切りに、駅の中と外が分かれてるんだなあ。壁に紙がいろいろ貼ってあるけど、みんな大体、素通りじゃん! 待ち合わせには使われるみたいだね。うーん、駅の壁って寂しそう。」
「お、こんなところに空き家があるぞ。うわー、つただらけ!なんかお化け出そう!」
てくてく、てくてく。
「壁ってなんだか、大変そう。壁なんて、誰にも構ってもらえないんだろうな。どうせ。そんな壁の運命なんて……。僕は、やっぱり、壁になりたくない!」
「おーい、おーい。」
誰かが後ろから呼んでいる。振り返ると、さっきの空き家の壁だった。
「君は誰? どうしてそんなに浮かない顔をしているの?」
「壁おです。」
壁おは下を向いて答えた。
「ぼくはこれから家の壁になるんだけど、壁って大変そうだし、つまらなそうなんだもん。」
「よしよし。壁おくん。壁ってなかなか楽しいぞ。つたのおしゃれもできるし、夜になるとおばけたちが面白い話をしにくるよ。」
空き家の壁は嗄れた声でこう言った!
「意外と壁って良いもの?」
てくてく、てくてく。
「ああ楽しいさ。」
びっくりして顔を上げる。
「毎日、たくさんの人を行ってらっしゃいと見送って、お帰りなさいと迎えるんだよ。意識されないけど、みんなきっと気がついているさ。」
にっこり笑って壁おを見下ろしているのはさっきの駅の壁。
「そうなのかあ。壁って悪くないのかも……。」
てくてく、ぴょんぴょん。
「そうさ。子どもたちはぼくに落書きしたりボールをぶつけたりしながら成長して行くんだ。ぼくが見守っているんだもの。みんな安心して遊べる。」
「そうさ、壁があるからわたしたちも安心して休めるのよ。」
学校の壁と、止まっていた虫たちが壁おにウインクした。
「そうか、壁って本当は大切なんだね。いろんな役割があるんだね。」
ぴょんぴょん、ぴょんぴょん。
壁おは家に戻って、しゃんと胸を張って立った。
「さあて、ぼくはどんな壁になろうかなあ。あれ、声がするぞ。」
引っ越してきた家族たちが、歓声をあげながら壁おを見つめているよ。
「ねえ、なんかこの壁、笑っているみたいに見えない?」
『もちろんさ、みんなを笑顔にする壁になるんだから!』
壁おはすまし顔をしながら、心の中でそうつぶやいていた。
サクラコ:VoYJ運営部員、東京大学UNiTeメンバー。小説を書くのが好きで、将来の目標は小説の力で平和な世界を作ること。「作者は読者が納得したのであれば、どのような解釈であれそれでよしとしなければならないのです」という祖父の言葉を座右の銘に、日々修行しています。広島県出身で、地元の自然豊かな風景が自慢。
りなっく:国際キリスト教大学(三鷹の森)在学中 毎日自炊を楽しんでいる!