そっと足をのせ、木のやわらかくもひんやりとした触感を楽しみながら指と指の間に鼻緒を入れる。心地良い音と共に歩き始める。
なんともない一連の動作にもどこか風情を感じて、「ふふっ」と笑みがこぼれてしまう。
はじまりは、神楽坂・赤城神社。
2010年に建て替えられ、新しい姿へと生まれ変わった。手がけたのは隈研吾氏。新国立競技場やスターバックス太宰府天満宮表参道店などを手掛けた建築家。
お参りしたら、早稲田通りへと向かい、神楽坂を下りる。
木々が並び、坂の途中には小さなベンチも設えてあって、小休止にはもってこいだ。
江戸時代から栄えるこの街には、石畳の小路やお寺など今でも風情ある街並みが残り、多くの観光客を引き寄せている。途中の和小物屋をひやかしながら歩き、外堀通りにぶつかったら水道橋方面へと歩みを進めてみる。
かつて江戸に水を供給していた神田上水が神田川を懸樋で渡ったことに水道橋の名は由来するそう。インフラが地名となり現代まで残っているのだ。
皇居の辺りまで来ると、お堀の向こうの大手町のビル群が水面に映えている。
そのまま、オフィスビルの隙間を抜け、日本橋へとたどり着く。
江戸の中心とも言える日本橋。いまは豊洲にある魚河岸もかつては日本橋にあった。浦安などで獲れた魚が運河や川を伝って集まり、江戸の人々の胃袋へおさめられていったのだ。
往時の賑やかさを教えてくれるような老舗もたくさんある。日本橋の顔、三越本店は、呉服屋の時代からほぼ同じ場所で営業し続けている数少ない百貨店の一つだという。
中に入り、パイプオルガンを聞きながら涼んでいると、華やかな百貨店で楽しむかつての人々の声が聞こえてくるよう。
三越の脇に一際輝いて見える地下への階段がある。「三越地階賣場 地下鐵入口」と書かれたその入り口に吸い込まれ、日本で初めてできたという地下鉄に乗り、銀座で降りたら、GINZA SIXに向かう。中央通りを人が歩いているのを見て、「今日は日曜なのか」なんて思ったりする。
エレベータで13階へあがり、日が傾いて茜色に染まった銀座の街並みを眺めて、「良いな。」そう呟いて、散歩を終えよう。
あとは晩餐だけだ。洋食屋でオムライスを食べても、立ち食いそばでさっと終わらせても、新橋まで少し歩いて一杯でも。
現代の大都市東京。無機質に見えるアスファルトや鉄筋の奥にも歴史や様々なストーリーが層の様に折り重なって、積もっている。僕たちは、いま見えているものに気を取られてしまいがちだ。でも、少し思いを馳せてみると、ささやかな幸せや誰かの優しさに気づくこともきっとあるのかな、なんて思ったりするのだ。
7月22日は、「下駄の日」らしい。
木と布だけでできた、この単純な履き物に足をのせ、街に繰り出すのもたまには面白いのかもしれないな。
散歩が好き。いつか歩いてユーラシア大陸を横断してみたい。