ヴァージル・アブローの贈り物

ボイス
+6

日本時間の2018年6月21日(木)21:30。パリのパレ・ロワイヤル庭園にて、ルイ・ヴィトン2019SSコレクションが始まろうとしていました。言わずと知れたマイケル・ジャクソンの名曲の題名を用いたこのショーの開催者はヴァージル・アブロー1)。このショーは、OFF-WHITE(オフホワイト)2)のデザイナーでもある彼の、ルイ・ヴィトンのデザイナーとしてのお披露目のショーでした。

トレンドを生み出し、世界のストリートファッション業界を牽引していると評されている彼を、メディアは「バズメーカー」と呼びます。

ヴァージルは1980年9月30日アメリカのイリノイ州ロックフォードで生まれました。ガーナ移民の両親のもとに生まれ、父親は塗料会社を経営、母親は洋裁の職についており、ごく一般家庭で生まれ育った、と言われています。

私はまだ大学生で、ルイ・ヴィトンのものは一つも持っていません。(もちろん、いつかは自分で実際に、世界中から愛されるブランドの美しい品物の数々を手に取ってみたい、とも思っています。)だから、今日私はルイ・ヴィトンのコレクションについて、その作品についてお話ししようとしているのではありません。

ヴァージルが注目されているもう一つの理由として、彼がルイ・ヴィトン初のアフリカン-アメリカンデザイナーであり、白人以外で初のビッグメゾンのディレクターとなったことが挙げられると言われています。「ファッション」という社会でアフリカン-アメリカンのデザイナーが華々しいデビューを飾った2018年のショーはファッション史に残る、感動的な出来事でした。レインボーのカラーに包まれた会場の雰囲気は温かなものであったそうです。

最近になって(やっと)、ジェンダーや人種等を含め、様々なところで「平等」や「多様性」が唱えられ、議論されています。世の中が少しずつ少しずつではありますが、「誰一人取り残さない」社会へ変わっている、その結果がヴァージルの誕生とも言えるでしょう。「平等」「多様性」「みんなが幸せに」言うのは簡単ですが、実際に変わるのがどれだけ大変なことか、最近少しだけわかってきました。日常の中でも意見の食い違いはあるのに、ありとあらゆるバックグラウンド、価値観を持つ人々が集まって簡単にいくはずがないのは「そりゃ、そうだな」と。それでも、多くの人が「平等」「自由」「多様性」を尊び、生きやすい社会を実現しようとしているのは事実であり、とても素敵なことだと思います。

でも一つだけ、一つだけ、私が最近ふと思ったことがあります。「平等」「多様性」の名の下に誰かをいじめるようなことや、復讐、SNS等でのリンチのようなことをしたりするのは、それは違うのではないでしょうか。憎み合いでは、なんの解決にもならないのではないのか、と思ったのです。近年SNSの普及で自分の意見の発信は容易くなりました。そのおかげで、おかしいことをおかしいと、誰でも自由に発信でき、様々な差別等に対する批判も言いやすくなってきました。例えば「#MeToo」運動等、差別是正のためにSNSは一役買ってるとも言えるでしょう。けれど、それが単なる批判にとどまらず、人の心を深くえぐるような、傷つけることのみを目的としたような、そんな投稿がよく見られることも確かではないでしょうか。

この記事を書く前に軽く頭をよぎったことがあります。以前、女性であるが故の、性的に差別されるようなことを言われ、ひどく傷つき怒っていた私はそのエピソードをどこかでばらして憂さ晴らしをしようかしら、と思っていました。

でも、やめました。

それが、単なる恨みに基づいた相手を傷つけるだけのイジメだと気付いたからです。

私は決して自分の被害を訴えること、主張を言うこと、間違っていることを怒ることをいけないなんて思いません。声を大にして間違っていることは間違ってると言い、闘うべきです。この世の中はまだまだ不平等で、差別があって、苦しんでいる人が多くいるからです。でも、その時、間違っていると主張する時、それがただ単に相手を傷つけ、憎しみを深くするだけのものに終わらないようにしたら、その方がより温かい社会が生まれるのではないでしょうか。そう、思うのです。

ヴァージルのショーは多くの人に勇気を与えたことでしょう。私もまだルイ・ヴィトンなんてとても持てないけれど、いつか大学を卒業してお金が稼げるようになったら身につけてみたい、と彼のショーをYouTubeで見ながら思いました。夢の詰まった、素敵な作品でいっぱいのショーでした。

ヴァージルのショーをみて二つ感じたことがあります。一つはまだまだ世の中は不平等なのだな、ということ。ファッション業界でアフリカン-アメリカンのデザイナーがビッグメゾンを率いるのに、こんなにも長い年月がかかるなんて、と思いました。

もう一つはヴァージルのコレクションが過去への批判や糾弾ではなく、多様性を受け入れる未来を期待させるような、温かく、希望に満ちたものであるように(私には)感じた、ということです。

不平等や差別は許してはならないものです。それを批判したりアクションを起こす勇気も必要です。でも、その中に憎悪の感情はいらないのではないでしょうか、、、ヴァージルのショーを見ながらそう思いました。


1)ヴァージル・アブロー(1980~):アメリカのファッションデザイナーであり起業家。Off-Whiteの最高経営責任者。2018年5月からルイ・ヴィトンのメンズコレクションのアーティスティック・ディレクターに就任。
2)Off-White(オフ・ホワイト):ヴァージル・アブロー氏によるハイストリートファッションブランド。

参考文献
『ヴァージルアブローの考えるジェンダーレス』
https://www.gsc-rinkan.com/column/off-white/off-white-gender-less/
動画アリ『Virgil Abloh/ヴァージルアブローの歴史』OFF-WHITE/オフホワイトのデザイナーはいったい何者??23個のターニングポイント
https://blog.gxomens.com/who-is-virgil-abloh-off-white/
解禁☆ヴァージルアブロー手がける新生Louis Vuitton(ルイヴィトン)!!
https://stylehaus.jp/articles/9396/
Virgil Abloh
https://en.wikipedia.org/wiki/Virgil_Abloh

+6