UNICEFヨルダン事務所インターン 角掛由加里さん【後編】

インタビュー
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UNICEFヨルダン事務所でインターンのご経験をされた角掛由加里さんのインタビューを全2回に分けてお送りします。前編では、今までのキャリアやヨルダンでのインターンのお仕事、若者へのメッセージについてのお話を伺いました。後編の今回はヨルダンでのお仕事やそこで感じたことについてお届けします。

 

– ヨルダンでのお話についてもう少しお聞きしたいのですが、具体的にどのように子どもたちと関わっていたのか、どういう仕事だったのか教えてください。

 

インターンで主に関わっていたのは、「Amaluna Programme」という、脆弱性の高いシリア人とヨルダン人の18歳から24歳のユースに対して奨学金付きの職業訓練教育・技能実習を提供する事業でした。

 

この事業の背景には、2008年の世界的金融危機、また特に2011年に始まったシリア危機以降の経済低迷を背景とした国内の高い失業率があります。ヨルダンの若者の失業率は30%以上で、仮に大学まで行ったとしても3割は大学卒業後の就職先がないという非常に深刻な状態になっているため、プログラムに参加するユースには、雇用の需要がある業界において求められる技術的なスキル及びライフスキル(コミュニケーション、チームワーク、問題解決、ストレス対処力等)を身につけてもらい、実際の雇用に結びつけられるように支援しています。

 

私がインターンとしてチームに入った時にはすでに始まっていたプログラムなので、私は頻繁にフィールドに出て、このプログラムが実際に機能しているか、被益者の青年たちが良い状態で参加できているかという観点でモニタリングをしました。また、これからも継続的に実施するためには、既存ドナーやドナーになる可能性のある団体や民間組織などに対してプログラムの効果や重要性をアピールすることが必要なので、プログラムに参加している若者たちの声をたくさん拾い、SNSなど広報系のメディアで発信を強化するサポートもしていました。

 

– フィールドに頻繁に足を運ばれていた中で、既存の事業以外で、こんな事業があればいいのにというニーズはありましたか。

 

そもそも、現在行われている事業でさえ資金が不足しており、継続するのが困難な状況です。日本政府はシリア危機以降非常に手厚い支援を続けてくださっており、UNICEFヨルダン事務所が掲げた2018年から2019年の予算の中でも、拠出金額ベースで全ドナー中トップ5に入るほど寛大な支援を頂いています。しかし、それでもヨルダン事務所が求める予算には足りず、ヨルダン事務所は事業をスケールダウンせざるを得ませんでした。そうすると、例えばヨルダン最大の難民キャンプ、ザータリ難民キャンプで暮らす子どもたちが学校に通えるように現金給付を行っていた事業も、すべての子どもたちを支援の対象とすることができなくなってしまいました。新しいニーズもさることながら、資金不足のためにまだまだ通常の生活を送る状態にいない子どもたちや青年たちを十分に支援することができない状態が私としては本当に心苦しいなと思っています。

 

– 日本政府はUNICEFヨルダン事務所にとって主要ドナーであるとお話にありましたが、日本人には寄付の文化がないとも聞きます。遠い国である中東の国々に対して私たちは何ができるのでしょうか。

 

同じように開発人道支援の分野で働いている現地のNGO、JICA、大使館の方々とも、どうしたらより多くの支援を頂けるかについてよく話をしました。日本において寄付文化の浸透は課題だと思います。寄付文化はキリスト教の精神が根強いため、欧米ではアクションを起こしやすく、定着も早いのだと個人的には考えています。日本では同じようにはならず、なかなか寄付という行動に繋がらないケースが多いと思います。宗教以外の何かで人々の心を支援に持っていくとなると、やはりどれだけ生身の情報に触れられるかが重要なのかもしれません。

 

ここからは本当に個人の意見になるのですが、今はオンラインで情報が溢れていて、例えばヨルダンで何が起きているかも新聞やSNSである程度把握できると思いますが、実際にその地で生きる人々の生身の感覚は、自らが主体的に彼らの話に耳を傾けなければ得られないのではないでしょうか。少しでも関心があれば、まずはそういう方々と話をしてみるところから自分なりの動きのきっかけが得られるのかなと思います。ただ、これはアクションを取ろうという本人の意思がないと始まらないことで、もちろん強制されるべきものではないと思いますので、月並みな言葉ですが、一人でも多くの皆さんが自分の中に一つでも何か社会に対する関心の種があって、その芽が出たと思ったらそれを潰さずに大切にして欲しいです。こうして「良い世界を作りたい」「困難な生活を送る人たちに対して何かできないかな」ということを考える人がもっともっと増えていったらいいな、増やしたいなという風に思っています。

 

– インターンの話に戻りますが、以前アメリカに住んでいた経験がインターン中や現地で生かされたことはありますか。

 

アメリカに住んでいたことと、内閣府主催の「世界青年の船」における経験が今の自分の形成に役立っていると思います。

 

アメリカ時代は留学9カ月の後、3カ月間現地のNPOでインターンをしていたのですが、その時にアメリカ人と肩を並べて仕事する楽しさを知り、それから世界で活躍したいという思いが確信的なものになりました。またその際に、英語が一定レベルできて初めてその先に成し遂げたいことを達成できると痛感したため、英語力の維持・向上のモチベーションになりました。

 

「世界青年の船」では、日本を含めて13カ国260人ぐらいの18歳から30歳の青年たちと一緒に2カ月間ほど旅をして、全世界五大陸出身の若者たちと一度に交流する経験をしました。民族や文化、言葉など、参加者それぞれのバックグラウンドが全く異なる中で、いかにして円滑な人間関係を築いてコミュニケーションをとるべきか、よく学ぶことができました。面と向かって話をすれば、意外と同じようなことで喜んだり悲しんだりするという共通した部分に気づくことができ、言語の壁は気にせず、とりあえずわかる言葉でコミュニケーションをとろうとする姿勢を自分から見せれば、相手も応えてくれるということがわかりました。英語は最低限のツールなので、英語の勉強はもちろん怠らないでキープすべきですが、その武器を持った上で、人と上手くやっていくには、やはり自分発のコミュニケーションが大切だと実感しました。皆さんもチャンスがあったら絶対に参加していただきたいなと思います。

 

– インターンの中で印象に残ったこと、嬉しかったことなど教えてください。

 

嬉しかったこととしては、初めて現場に足を運び、そこで私が関わったプログラムの受益者である青年たちが、プログラムの参加前と後で人生が変わったという話を見聞きしたことです。例えば、このプログラムを通じて手に職をつけた青年が、将来お店を開きたいという意志と夢を持つことができたと言っているのを聞いた時は、彼が人生の舵を切るきっかけ作りに貢献できたという点でとても嬉しく思いました。

 

実務面でいうと、それまでの民間企業での勤務経験を通じて得たエクセルやパワーポイントなどの汎用的なスキルがかなり役立ち、チームのメンバーに喜んでもらえて嬉しかった記憶があります。

 

逆に難しいと感じたことですが、ヨルダンは中所得国なので現地出身のスタッフの割合も高く、アラビア語を話せて背景や文化も分かっていて高い専門性を持った優秀なスタッフがたくさんいます。そのような環境の中、すべて学ばなければいけない、言葉もネイティブではないという状況で、自分のアドバンテージは何なのかについて悩みました。私は究極的には、国連機関なしに各国で生きる人々が自ら幸福を達成している状態にあるのがいちばんだと思っているので、現地のスタッフが優秀で活躍していることは当たり前に良い話ですが、その途中段階である今は、私のような国際的なスタッフの力も必要だと思われる存在になるべく、この先もっともっと経験を積んでスキルを磨き、頑張っていかなければと思いました。

 

– 最後に、全国のユースにメッセージをお願いします。

 

持続可能な開発目標(SDGs)が採択されてから数年が経ち、少しずつ社会に浸透し始めているという感覚はありますが、ユースの皆さんはSDGs達成のためにとても大切なアクターの一員だと思います。ゴールの2030年には、現在のユースがまさに社会の中核を担う立場になっていると思うので、そのユース世代の行動次第で2030年の社会は全然違った景色になるのかなと思います。難民や多文化共生など、一つの社会としてどのように多様性を尊重しながら生きていくのかということに少しでも関心を持つ人がいたら、是非その気持ちを大事にして、何かしらのアクションを起こしてもらえたらと思います。一人だけでやろうとせず、まずは友達に話してみるとか、関連のある活動をしている人の講演会を聞きに行ってみるとか、なんでもいいと思います。そういった小さなことでも、小さなアクションを重ねていけば、いつか大きなアクションに繋がると思います。そういったことをぜひ皆さんと一緒に続けていけたら嬉しいです。 

 

ご自身のキャリアのことからインターンのお仕事のこと、若者への思いなど、たくさんの貴重なお話を聞かせていただきました。お話をお聞きするだけでも、角掛さんのポジティブさや、行動力が伝わってきました。私も自分の中の小さな芽を大切にして、三年後の自分が後悔しないよう、挑戦していきたいと思います。角掛さん、この度はありがとうございました。


 

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